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□どんなに珈琲が苦くても
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「………お前ら……確かにおれは勉強になるからそれぞれ航海日誌をつけろとは言ったが、個人的な日記を書けと言った覚えはねェぞ」


ああ、ノースブルーの凍てつく冬を思い出す。もう10月だから、そろそろ部屋の何処かに眠ってる冬用の裏起毛ツナギを捜索すべきかもしれない。あれ、ベポの冬毛みたいにもふもふで、あったかいんだよなー。


「ペンギンは……まァいい。ベポ……お前は、まず航海日誌が何たるかからペンギンに教えてもらえ。シャチ、てめェは今日から2週間甲板掃除だ」
「えェー!?おれだけっスか!?」


文句があるのか、とばかりにぎろりと睨まれて、いえスミマセンと小さくなったおれは、味方を求めて視線を彷徨わせた。船長の発する冷たい覇気で部屋の温度が2℃は下がったというのに、ペンギンは涼しい顔で自分用に珈琲を淹れ直している。船長にはブラックを、ベポにはミルクたっぷりココアを、客人にはアールグレイを。それぞれ半分程飲み進められていて、キッチンに漂う珈琲とカカオとベルガモットが混ざったあたたかい空気が、傷ついたおれを優しく包んだ。
ちなみにおれの分のお茶は無い。


「可哀想じゃない?この日誌、こんなにアンタのこと褒めてあるのに」


客人がおれの日誌をぺらぺらとめくって、くすりと笑った。


「おれの船のクルーだ……お前の指図は受けねェ。甘やかすとコイツの為にならねェ」


うん、ベポのココアくらいとは言わないから、せめて珈琲に垂らすミルクくらいの甘さは有ってもいいと思うんだけど…あ、船長の珈琲はブラックですかそうですか。


じゃなくて。
そう、2週間の甲板掃除なんてどうでもいいくらいの事態が今、まさに進行中なのだ。


あの船長が。
生きた女は鬱陶しいと言い放った、あの船長が。
長い航海始まって以来、特定の女と関係を結んでいるようには見えなかった船長が。
初めてウチに連れて来た、女。


それだけでも驚きなのに!


「…ちゃんと船長してるのねえ。ウチのルフィとは大違いだわ」


麦わらのところの、泥棒猫!!!
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