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□B名前
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「……ご、ごめんなさ、い」
「…誰かに殴られるなんて久しぶりだなァ」


にやにやと笑うドフラミンゴは妙に愉快げで、少なくとも気分を損ねた訳ではないらしいことに気付くと、ナミははぁ、と肩の力を抜いた。普通だったら乙女の寝込みを襲うなんて万死に値するのだけれど、行き倒れたところを救ってもらった上に夜通し看病された手前、強くは出られない。


(ていうか、王下七武海に平手打ちって、なんて事してんの私……!)


頭を抱えて悶えるナミが考えていることなどお見通しなのか、ドフラミンゴは面白そうにその様子を眺めていたが、ふと思い出したように立ち上がって部屋を出ると、直ぐに戻って来た。


「薬だ、飲め」
「…あ、ありがとう」


白い錠剤と男の顔を見比べる。仮にも敵から渡されたものを簡単に飲んでいいのか一瞬考えたが、ここまで助けておいて今更毒を飲ませるメリットも無いと思い直して、渡されたコップの水とともに一気に飲み干した。冷たい水が通り抜けた後で、漸くからからに喉が渇いていたことが分かる。そんなことも見越していたかのように、二杯目の水が間髪を入れずに差し出された。


「朝飯は食えそうか」
「…ええ、少しなら」
「病み上がりだ、軽いものを用意させてある。ところで、お前の仲間の居場所は分かるか?」
「……私が、攫われた場所を中心に探し回っていると思うわ。そこから、あのヒューマンショップまではそんなに遠くないし」


どうしてそんなことを聞くの。
訝しげな視線に、ドフラミンゴは思わぬことを口にした。


「手紙を書くといい」
「……え」
「部下に届けさせる。攫われたところから逃げ出したが怪我を負ったので、暫く療養する、とな。ああ、おれの名前は出すなよ?無鉄砲なガキどもが、余計なトラブルを持ち込んで来ちゃ敵わん」
「…帰して、くれるの?」


ドフラミンゴは口元に浮かべた笑みを一層深くすると、からかうように言葉を続けた。


「…なんだ、おれに惚れたか?帰りたくねェんなら、ずっとここにいてもいいんだぜ?」
「なっ……!」


思いがけず顔が赤らんだのは、きっと、まだ残る熱の、せい。
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