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□B名前
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「部屋の中から、呻き声が聞こえて来るのです」


今夜も眠れぬ夜をやり過ごしていたドフラミンゴのもとに、ナミの部屋の前に控えさせていた部下から再び報告が入ったのは、日付けが変わってから大分経った頃のことだった。


急いで部屋に入ると、ベッドの真ん中で息を荒げているナミの顔は真っ赤で、傷口の痛みが高熱を引き起こしていることは素人目にも明白だった。やはり医者を呼ばなければならなかったと、己の判断ミスとナミを他人の手に任せなければならないことに酷く苛立ったドフラミンゴは、舌打ちをして部下に船医を呼びに行かせた。
傷口の処置を終え、目が覚めたら飲ませるようにと薬の処方を受けると、早々に船医を追い出し、汗ばむナミの額を撫でる。そこはまだ熱く、何度冷たい水で絞ったタオルを乗せてやってもすぐに温くなってしまう。


「………悪かったな」


聞こえてはいないだろう。けれど最初から医者に診せていれば、こんなに苦しませることは無かったかもしれない。どうせ眠れぬ夜なのだから、と言い訳をして何度も何度も額のタオルを取り替えてやったのは、償いの意味もあるだろうか。
やがて空が白み始める頃、漸く少しは楽になったように見えるナミの身体を労わるように抱き締めながら、ドフラミンゴは驚く程深く、安らかな眠りを貪った。




「……い、ぃやああぁぁッ‼︎‼︎」


耳元で響いた甲高い叫び声で、自分が知らない間に眠っていたことに気付いたドフラミンゴは、広いベッドの上でゆっくり身を起こした。明け方近くまで起きていたのに、随分と身体が軽い。短時間で良質な睡眠が取れたようだ。こんなことはいつ以来だろうかーー何も知らない子供の時、天国に住んでいた頃以来、無かったかもしれない。


「な、な、な、」


次の言葉が生まれ出るまでやたらと時間がかかる様子のナミは、熱も下がり大分回復したように見える。目を見開いて口をぱくぱくさせるその姿はなんとも愛らしく、つい、ぷるぷる震える指を捕まえて、戯れるようにそこにくちづけを落とした。


「具合はどうだ、ナミ」
「………なんであんたが、私の隣で寝てるのよーーッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」


ばちーーーーん。


彼が如何に強く、王下七武海の称号を持った世界三大勢力の一角を担う存在であっても、たまには寝起きに女に平手打ちされることくらい、あるのである。
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