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□オルゴール・ナイト
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あなたには、あるだろうか。




幸せな日常で、不意に涙がこみ上げて来ることが。


何の心配も要らない筈の穏やかな午後に、溜め息が止まらないことが。


宴の陽気なざわめきの中、急に世界にひとり取り残されたような気持ちになることが。




ーーなにより大事なものをー『仲間』と『夢』をー失ってしまうのではないか、という、得体の知れない恐怖が、突然ざわりと身体中を包むことが。








「…ねえロビン、私って情緒不安定なのかな」
「疲れているのよ、きっと……ここのところずっと気紛れな天気に振り回されて、あなたろくに休めていないじゃない」


女部屋では、時々隠している本音が溢れる。それはロビンが言うように、疲れているからかもしれないし、いつも優しく微笑む彼女につい甘えてしまうからかもしれないし、さっきサンジ君がお疲れの私にと持ってきた甘い蜂蜜入りのホットミルクの温かさのせいかもしれない。


「それに、女性の気持ちはホルモンバランスにも左右されがちなものよ。誰だって気分の浮き沈みが激しい時もあるわ。それから……言いにくいのだけれど」
「なぁに?」
「ナミ、あなたは……長く辛い経験をして、やっと自由になった。今の幸せが信じられなくて、フラッシュバックのようなことが時々起こるのも、無理のないことよ」
「………やーね、ロビンの味わった辛さに比べたら、私の過去なんて大したことないわよ。…ごめんね、気を遣わせて」
「いいえ…もう今日はお眠りなさい。ゆっくり休めば気分も晴れて、きっと明日はいい日になるわ」
「…ん……そうする。ありがとう…おやすみ…」
「…おやすみなさい、ナミ」


壁に咲いた手によって、ぱちりと電気のスイッチが消される。疲れと甘えと温かさ、その全部が私を簡単に眠りへと誘った。
ロビンが暫く私の頭を撫でてくれたのは覚えているけど、その後彼女が部屋から静かに出て行ったことには、全く気付かずにいた。
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