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□A困惑
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遠くから船に近づく影が、いつものようにピンク色の羽根をはためかせていなくても、忠実な部下たちはそれを主と認めた瞬間からきちんと整列して、ドフラミンゴを迎えた。


「おかえりなさい、若様!」
「若!先にお戻りになっているとばかり…心配しました。……それは一体?」
「ああ、今戻った。すまなかったな、これは拾い物だ」


暑苦しいタキシードから更に暑苦しいいつもの格好に戻ったグラディウスが、ドフラミンゴが大事そうに抱えたものを見てぎょっとする。主は気紛れで気に入ったものを手に入れるのに手段は選ばないが、女を連れて帰って来たのは初めてのことだからだ。


「オークションは終わったのか?何か変わったことは?」
「あ……はい、終盤何やらトラブルがあったらしく、予定よりも早く終わりました。後で調べたところ、目玉商品が逃げ出したとかで」
「そうか、やはりな。多分コイツがその目玉商品だ」
「…はい?」
「まあ、逃げたのを拾ったんだからおれのモンだな」


女を抱えたまま機嫌よく笑って船室に戻るドフラミンゴを、グラディウスは呆気にとられて見つめていた。






「…何事だ?」


軽く汗を流して着替え、シャンパンの細かい泡で舌を愉しませていると、にわかに廊下が騒がしくなった。部屋を出て、騒ぎの元へ足を運ぶ。


「あ、若様!すみません、女が目を覚ましたのですが……」
「酷く怯えて、暴れるので手に負えなくて」


部屋を覗くと、果たしてそこにはシーツを引っ掴んで、がたがたと震えながら部屋の隅にうずくまる、美しい顔を恐怖と怒りに歪ませた女がいた。まるで手負いの獣だな、とドフラミンゴは口角を上げて、部屋の中へと進んだ。


「来ないで!」


ぴしゃりと飛んで来た鋭い声音に足を止める。ドフラミンゴはおろおろする部下たちを手の動きだけで追い払うと、ドアを閉めて降参とばかりに両手を上げた。


「取って喰いやしねェよ…麦わらの一味、”泥棒猫”……ナミ」
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