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□@邂逅
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人影もまばらな海岸に出たドフラミンゴは、仮面をいつものサングラスに付け替えると、暑苦しいブラック・タイを引き抜いた。もう闇がそこまで迫っているとはいえ、蒸し暑さはまだまだ身体に絡み付いてくる。
ついでに上着も脱ぐと、会場の熱気と残り香がそこから立ち昇るようで、思わず顔を顰めた。
人身売買に手を染めている以上、自分とあの男たちは同類。それどころか、今までやってきた所業の極悪非道さを鑑みれば、自分の方がよっぽどの悪人だ。なのに、こんなに不快な気持ちに苛まれるのは何故だろう。


歩いているうちに、随分島の外れまで来たようだ。
人っ子一人居ない海岸沿いの小道にベンチを見つけたドフラミンゴは、迷わず腰を下ろした。船に戻るとは言ったものの、律儀なグラディウスは最後までオークションの視察を続ける筈だから、ここで多少時間を潰しても問題無いだろう。
生温い空気が徐々にひやりとした夜の海風に変わるのが心地良くて、自然と瞼が閉じた。






人の気配。
少し眠り込んだ間に、空は黒く染まり、空気は冷え冷えとしている。ドフラミンゴは軽く音を鳴らして首を回すと、上着を羽織って、頼り無い気配を感じた方向へ足を進めた。
日頃から長く安眠を貪ることの出来ない体質であるから、僅かな間でも得ることの出来た休息を邪魔した者を、どんな風に始末しようかと考えながら。




じゃく、じゃく、と砂浜に響き渡る男の革靴の音に、”それ”は遠目にも分かるくらいびくりと震えた。
恐る恐る振り返って、大きな瞳を目一杯見開いたそれは、


「あ……んた…は……」


と言ったきり、力が抜けたように膝を折って、そのまま砂浜に倒れてしまった。
特に覇気も使っていない筈のドフラミンゴはその様子を怪訝に思いながら、少し足を早めて近付く。


波際に突っ伏したその姿は、まるで打ち上げられた人魚のようだ。長い黄昏色の髪が悪戯に海風に乱されて、白い肌が露わになる。何処かで見たような真っ白で繊細な造りのドレスは泥にまみれて、人魚というよりは堕ちた天使みたいだ、などとドフラミンゴは考えた。似合わないファンタジックな想像に囚われるくらい、瞼を閉じたままの女の容姿が、美しかったから。


天使の喉元に鈍く光る鎖を見つけた時、その背徳的な輝きに、知らず鼓動が速まった。
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