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□@邂逅
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「……タキシードが似合うなグラディウス」
「恐れ入ります、ですが若の足元にも及びません」


褒めちぎったとしても決して表情を崩そうとしない若き部下の姿を、ドフラミンゴは観察した。
ドレスコードはタキシードと、顔の上半分が隠れるだけの仮面でいいのに、この男は普段から着けているマスクを外そうという考えは微塵も思いつかなかったようで、結果いつも通り完全に顔が隠れている。そういうドフラミンゴも、いつものサングラスを白い仮面に変えただけだから、あまり変わり映えしないのだが。


ここはヒューマンショップのオークション会場。ドフラミンゴが経営する系列の店ではなく、そこそこ名の知れた”人間屋”が主催するもので、大した人脈も無い筈なのにどうしてか最近評判の上がってきたこのオークションを偵察がてら、新世界の外れ、小さな春島にやってきたのだった。




「商品の質は悪くねェ。だが客層は最低だ」
「そうですね」


むっとする熱気。
媚薬入りの香を焚いたように、くらくらする風の無い室内。
眩しいくらいに照らされたステージとは対照的に、客席は客同士顔が割れないようにする為か、仄かにフットライトが灯るばかりである。それでもかすかに浮かび上がる調度品の数々は、それなりの質であることが窺えた。
上半分だけの仮面では隠し切れない下卑た笑いに包まれた会場の雰囲気に、ドフラミンゴは眉間に皺を寄せてなんとか耐えていた。
同じ商売をしている以上、そもそも文句など言える立場ではない。だが、先程から競り落とされる見目麗しい商品たちは、若い女ばかり。犯罪者や世界政府非加盟国民に混じって、明らかに普通の少女たちもいる。恐らく、その美貌故に運悪く人攫い屋の狩りの対象になり、こんなところまで連れて来られたのだろう。


ー会場にいる男たちの、慰み者になる為に。




「飽きた。………先に戻る。グラディウス、気に入った女がいたら買ってきてもいいぞ」
「わ、若!」


全身白と黒に覆われた真面目な部下の、たった一箇所見える耳が真っ赤になったことだけが、この島に来てから愉快に思えたことだな、と笑いながら、ドフラミンゴは派手に飾り立てられた会場を後にした。
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