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□つみかさね
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なるべくゆっくり、シーツの上に柔らかな身体を横たえてやる。道中、この船の連中に遭遇しなかったのは幸運だった。騒ぎになれば、穏やかな眠りを確実に妨げてしまっていただろう。


「…ん」


ころん、と寝返りを打って、オレンジの髪が花開く。その輝きが夜目にもよく映える、白い肌。


ー彼女のものとは、違う。


昔自分が患い、故郷を滅ぼした病の症状のように、彼女の肌は白かった。雪を操る能力故か。それでもあたたかく、血が通っていた筈なのに。


彼女の呼吸を止めたのは、自分。
今までも、これからも、たくさんの人を殺すだろう。この掌に、死を積み重ねて生きていくだろう。
こんな自分に、




ふ、とベッドに視線を戻すと、猫のように丸まった女がいた。その肌はやはり白い。けれど胸が優しく上下して、皮膚の下に赤い血が通っていることが分かる。呼吸をしていることが分かる。


この女も、息絶えたなら。
圧倒的な冷たさと美しさで、おれを狂わすのだろうか。


想像の内に留めておかなければならない感情が、煮え滾る激流となって腹の奥から流れ出る。
いとしい、と思った女の、冷たくなった姿を想像して身震いする。


もしも、今、


この手で縊り殺したら




あのひとの美しさを、


超えるのだろうか。




胸やら腕やら、そこかしこに刻まれた黒々とした紋様からぞわりと熱が這い出て、白い肌をどす黒く染めていくような錯覚に囚われて。
泣きそうになった。





つみかさね
(罪を累ねて、生きてゆく)





END
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