Book
□つみかさね
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ファミリーにとってーー彼女にとって、”彼”は唯一無二、絶対の存在。
失態を晒した部下は容赦無く消す冷酷無慈悲な若きトップは、その一方で幹部と呼ばれるメンバーには非常に寛容で、かつその手腕は比類無く優れており、生まれ持ったカリスマ性が彼をその時から既に”王”たらしめていた。しかし、幼きローからしてみれば、モネやグラディウスのドフラミンゴへの忠誠は崇拝の域に達していて、いっそ滑稽にも思えたのだった。
「命と引き換えにしても、守りたいひとが、いつかあなたにも出来るわ」
今思えばモネのそれはただひたすらに愛だったのだろう、しかし愛と呼んではならないその感情を胸の奥に積み重ねて、哀しげに微笑んだ彼女の言葉が今更頭の中でリフレインする。
初恋と呼べるかどうか分からない程に淡い気持ちは、認識した途端に霧散して。それくらいモネの針は、ただ彼にだけ傾けられていたから。
主の為に闘って散った、触れたら凍ってしまいそうに冷たくなった彼女の屍体より、美しいものをおれは知らない。
「…寝室まで、運んであげてくれる?」
振り返らなくても誰の声か分かるくらいには、この船に馴染んだ。そもそも女は二人しかおらず、しかもその内の一人は、今目の前で描きかけの海図の上に突っ伏しているのだから。
「きっと疲れたのね…パンクハザードでは、色々あったし」
黒髪の女は目を細めて、愛おしげにオレンジの髪を撫でた。その動きが牽制のように見えたのは、多分勘違いではない。
「いくら七武海とはいえ、手強いわよ?…ウチの船長さんも、剣士さんもコックさんも。皆、このコを愛して止まないのだから」
「…そのようだな」
測量室に来たのは本を読みたかったからであって、この女がいるなんてことは知らなかったし、偶然眠っていた女に誘われるように近付いたのは剥き出しの肩が酷く冷たそうに見えたからで、自分の上着をかけてやろうとらしくない親切心を出したからなのだが、下手な言い訳は全てを見透かしたかのように笑うニコ屋には通じないだろう。
「…女部屋は何処だ」
「あら、知っているくせに」
……やはりこの女は苦手だ。