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□あの月を堕としてよ
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有無を言わさず近くの安宿に連れていかれたナミは、そのままバスルームに放り込まれた。その間ローは何も言わず、事情を説明しようとしたナミの言葉を遮って、「トラ男じゃねェ。ローだ」と一言喋っただけだった。
最初は何故こんなところに連れ込まれたのか訝しんだナミだったが、狭いバスルームには不釣り合いな程大きな鏡に映った自分の姿を見て、ローの好意を有り難く受け取ることにした。返り血と男たちの手が這い回って汚れた身体を丹念に洗い流して、そっと部屋に戻る。
ローはベッドに腰掛けるでもなく、黙って壁際にもたれたまま、髪を乾かすナミを見ていた。


「…ゾロ屋と、何かあったのか」


ドライヤーの音が止んで、暫しの沈黙があった後、ようやくローが口を開いた。


「…知って、るの?ゾロと付き合ってること」
「普段あれだけ引っ付いてぎゃあぎゃあ騒いでれば誰でも分かるだろ」
「……そ」


この男は中々勘が良いみたいだ。ゾロと付き合いだして、直ぐに察したのはロビンとサンジだけで、他のクルーは最近まで全然気付きもしなかったというのに。


「……喧嘩した」


もうこの際、話してしまえば楽になるのかもしれない。


「いつも、くだらないことで喧嘩するんだけど」
「勝手に秘蔵のお酒を飲んだとか、他の男に色目使っただとか、あることないこと」
「今回は……ちょっと深刻かも」


「あのね……私、まだシてないの、ゾロと」


それまで黙って聞いていたローが顔を上げてナミを真っ直ぐに見た。鋭い瞳に射竦められて緊張感が走るが、同時に何故か頬に熱が集まるのを感じた。


「…思ったより器の小せェ男だな。それで、ゾロ屋に何か言われたのか」
「………こう言われたわ」


ーお前、もしかして……他の男と関係を持ってるから、おれのことを拒んでる訳じゃねェよな?




「ーーなら、」


予想外に近くから聞こえた声には、と顔を上げると、ベッドに座り込んだナミの前に音もなくローが立っていた。逆光でどんな表情か伺い知ることは出来ない。
ただ、


「”あることないこと”から”事実”に変えちまう、ってのはどうだ?」


その声は確かに、愉快げに揺れていた。
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