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□あの月を堕としてよ
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あっという間に、にやにやと下品に口元を歪ませた男たちに取り囲まれる。
ナミははぁ、とまた溜め息を零した。
どうしたってこのパターンが多いのだ。世はまさに大海賊時代、悪が蔓延る世の中だから、陸地にもチンピラが多くて当然なのかもしれない。そこにかよわい美女が一人とくれば、もう襲って下さいと言っているようなものだ。
いくら自暴自棄になっているとはいえ、こんな男たちに身を任せるほど馬鹿ではない。ナミはそっと愛用の武器に手を伸ばして、
ーーしまった。
いつも携行しているクリマ・タクトがない。そういえば、何も持たずに飛び出して来てしまったのだった。
「一人で暇だろ?おれたちと遊ぼうぜ」
そうこうしている間に、男たちの中で一番体格の良い男が近付いて来て、ナミの肩に手を置いた。嫌悪感が背筋を走ったが、武器も持たずに素手でこの局面を乗り切れるとは思えない。ナミは咄嗟に機転を利かせて、そのごつごつした手に自分の柔らかな掌を重ねた。
「……いいけど、こんな路地裏じゃ嫌だわ。人目につくかもしれないし…お兄さんたちの宿はどこ?そこで、楽しみましょう?」
まだ涙の残る瞳を潤ませて、上目遣いで男の顔を覗き込む。一層だらしなく緩んだ表情に、これなら隙をついて逃げられる、と確信した瞬間。
「…どっかで見た顔だと思った。コイツ、麦わらの一味の”泥棒猫”だ!賞金首ですよ、兄貴!」
逃げ道を塞ぐように立っていた別の男が叫んだ。
煌々と照る月の光の下、黄昏色の髪は目立ち過ぎただろうか。瞬時に身を翻して男の傍を擦り抜けようとする。
「逃がしゃしねェよ」
「やぁっ……!」
乱暴に肩を掴まれて、路地の更に奥の方へと引き摺り込まれる。壁際に追い詰められて、汚い手が何本も服の下に潜り込んだ。
「ゾロ……ッ!」
助けに来る筈もない、男の名を口走る。
と、斬撃が音もなく走って、男たちは血飛沫と引き攣れた悲鳴をあげながら、無様に崩れ落ちた。
満月を背に立っていた痩せた男が、冷たい瞳で男たちを見下ろして、静かに刀を収めた。
「ト、…ラ男、君?」