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□あの月を堕としてよ
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「……ゾロの、バカーーー!!!!」




昼間の蒸し暑さがまだ色濃く残る、宵の口。サニー号に響き渡ったのは、航海士の叫び声だった。
乱暴に女部屋の扉が閉められた音と、高いヒールが凄いスピードでかつかつと駆け抜けていく音が消えた頃、クルーたちが何事かと集まって来る。


「てめェクソマリモ、ナミさんが尋常でないお怒りのご様子だったぞ!何しやがった」
「今擦れ違ったのだけれど、泣いていたようにも見えたわよ」
「…おいゾロ、ナミを泣かしたのか?」


航海士の笑顔を愛してやまないクルーたちに詰め寄られて、緑髪の剣士はバツが悪そうに、頭をがしがしと掻いた。








「……もう、最悪」


停泊中だったのをいいことに勢いで船から飛び出しては来たものの、走り続けた所為か街に入って早々にお気に入りのヒールが折れた。気晴らしにショッピングをしようにも、こんな足では歩き回れないし、大体財布も持っていない。まあ、たとえ財布がなくとも、欲しいものを手に入れる手段は何通りかあるのだが。


「……はぁ」


折れたヒールを持て余して、賑やかな表通りから逃げるように路地裏近くにへたり込んだ。何度吐いたか分からない溜め息が、零れてはずしりと心にのしかかる。


「…あんな言い方、するなんて」


最近、ゾロと喧嘩をしてばかりだ。原因が自分にあるのは分かりきっているのだけれど。
先程言われた言葉が繰り返し頭をよぎって、ちくちくと心臓をつつく。
じわりと涙が滲んで、綺麗に丸かった筈の満月が歪んだ。




「どうした、別嬪さんがこんなとこで…一人か?泣いてンなら、おれたちが慰めてやろうか?」


一人になりたいと願っても、この罪作りな美貌は、それを許してはくれないらしい。
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