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□アムネシア×ディスペプシア〜remind〜
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子供のように胸元に縋り付いて離れないローにすっかり毒気を抜かれて、ナミはその頭を優しく撫でた。


「……あんまり痕つけないでよ。着れる服がなくなっちゃう」
「見せつけてやりゃあいいじゃねェか。お前がおれのモンだって印を、お前の仲間たちに」
「今更何言ってんのよ、私がローの恋人だって分かってるから皆、この船に送り出してくれたのに」


くすくす笑うナミに、ローは心の中で舌打ちした。コイツ、全然気付いてないのか。


「あのなあ……お前、もっと男に警戒心を持て。何でゾロ屋がお前を奪い返しに来たと思う?あの黒足屋がお世話になりますなんて純粋な気持ちで差し入れに来たと思うか?大体、お前と付き合い始めた時だって、麦わら屋に納得させるのも大変だったんだぞ」
「何でって……ゾロのは親心?みたいなものだし、サンジ君のメロリンは平常運転でしょ?ルフィに限っては絶対そんなことないわよ。単に『トラ男がナミを攫おうとしてる!』とでも思ったんでしょ」


……駄目だ。全ッ然分かってなかった。


エロコックは確かに万事あの調子だからあまり気にはしていなかったが、剣士があそこまでナミに入れ込んでいることに気付かなかったのは失態だった。麦わら屋にしたって、今は男女の機微がなんたるかもよく分かっていないからいいが、いつか気付いてナミを取り返しに来るんじゃないか。考えられ得る限り一番恐ろしい可能性はそれかもしれない。


「……はあ、手に負えん」
「思い通りになるような女が好みだったとは知らなかったわ」


悪びれた様子も見せず、綺麗な弧を描いた口元に誘われるようにして、くちづけを落とす。


ずっと欲しかった、この笑み。
天真爛漫で純真無垢な笑顔も捨て難いけれど、おれだけに見せる女の顔。
この艶やかな赤い唇が、誘うのだ。より深い夜へと。より深い海の底へと。


お前となら何処へでも堕ちていける。
だからどうか、


「もう、……忘れないでくれ」


珍しく熱っぽい声にナミが首を傾げた隙に、未だ鎮まっていなかった欲を、ぐちゅりと勢い良く押し込んだ。
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