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□fragile
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完璧に身支度を整えた女は、いつものように一人で部屋を出る。
「じゃあ、私先に船に戻るから。この荷物、お願いね」
「かしこまりました、プリンセス。……そんなに、アイツらに気付かれるのが怖い?」
「!」
「…おれに抱かれてる間は、あんなに素直で可愛いのになァ。別々に帰ったって、おれが君の荷物を持ってる時点でお察しだと思うけどね」
「勘違いしないで」
「”抱かれてやってる”のよ」
質問には答えずに、ただお互いの関係性だけに言及した辛辣な言葉と冷たい視線は放たれた矢のごとく、真っ直ぐサンジに突き刺さる。部屋の扉が閉まれば、足早にヒールが遠ざかっていく音を遮断して、静寂だけが残った。
「…はは」
君にゃあ敵わねェ。
煽情的な服装で、強気に唇を歪めてみせる君。本当は泣き虫で、繊細な少女なのに。
ああ、可愛いなァ。
おれの一挙手一投足を追う姿が。
たったの一言でくるくる踊る表情が。
愛しくて、堪らない。
ー君が欲しがっている言葉、知っているよ。
でも、
細やかな硝子細工を、ひと思いに砕くのも。
粉々に壊れた心の破片を拾って、そっとくちづけを贈るのも。
ただ一人、おれだけに許して欲しい。
愛の言葉を囁いて。
核心には触れないで。
もう少しだけ、このままでいさせて。
fragile
(甘く脆い関係に、終止符を打つのは誰?)
END