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□fragile
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「ねえナミさん!こっちの服も似合うと思うよ?おれ、買ってあげよっか?」
「…後が怖いからいいわ。男が女にドレスを贈るときは、男はそのドレスを脱がすことを考えているって、昔から言うしね」
「やれやれ、バレてたか……あ、でも、それ買うんだね」
「私が気に入っただけ!別にサンジ君は関係ないから」
「ツンデレなナミさんも好きだー!」


柔らかなレースが彩るドレスにふわりと身を包んだ小さな悪魔が、肩に腰掛けて、コットンピンクの唇で囁く。
素直におなり、男を愛せ。


緩めたネクタイを弄んだ小さな悪魔が、耳元で耳障りな笑い声を立てて飛び跳ねる。
欲望のまま、女を愛せ。






昼間散々買い物に付き合って、重い荷物を幾つも持たされたご褒美に。


安宿の一室に満ちた情事特有の気怠げな雰囲気を掻き消すように、濡れた長い髪からは爽やかな柑橘系の香りが漂う。
未だに裸のままベッドの上にいる男とは対照的に、事を終えるとさっさとシャワーを浴びた女は、昼間買った大量の紙袋の中から服を選んだ。
男が選んだ服を着てみせるような、可愛い真似はしない。


迷った末に袖を通したのは、背中がざっくり開いたミニワンピース。深いブルーのそれは、夕焼け色の美しい髪を、これ以上無いくらい引き立てているけれど。




「…ナミさん、昼間も思ったけど。やっぱりその服露出多過ぎ」
「何度も言わせないで。何回かシたくらいでー」
「ハイハイ分かってますよ、『彼氏ヅラするな』でしょ?」


降参とばかりに両手を挙げて、煙草を燻らす男を、ナミは一瞥した。
好きだの愛してるだの軽い言葉は何万回聞いたか分からないのに、肝心な言葉はひとつも贈ってはくれない。
だからこうして曖昧な関係に甘んじて、男が追うのを途中で諦めないように、時には甘く、時には冷たく。餌を撒きながら逃げるのだ。
自分から、なんて冗談じゃない。
だって、向こうが本気じゃなかったら。
逃げる女を追いかける、恋のゲームを楽しんでいるだけなのだとしたら。


私の繊細なハートが、どうなってしまうか分からない。
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