Book

□ポラリス
2ページ/2ページ

唇が重なる前に、零れ落ちたひとつの問いかけ。
啄むような優しいキスは、すぐに深く心まで抉るようなそれに変わってシーツの波に飲まれてしまうから、唐突に出た質問は酷く簡潔になってしまった。
それでも男は言葉の行間を正しく読み取って、笑った。


「知ってるか?鳥は眠りが浅ェんだ。油断してると外敵に喰われちまうからな」
「………巨大な怪鳥にも、飲み込まれるような敵がいるの?」
「さてな……他人行儀な呼び方しか出来ないお前には、まだ教えてやれねェな」


王である、ということは、他人が思う以上に大変なことなのかもしれない。少なくともこの男が目指す王とは、揺るぎない支配者でなければならないのだ。あまねく星々に唯一無二の輝きを届けるならば弱音を吐いてはいけないし、堕ちた星を追いかけたくとも、残された星を守る為にはそこに不動の者として在らねばならない。それってとても哀しいことだ、と考えながら運ばれたベッドの上で始まった夜は、いつもに比べたら随分と穏やかで優しかった。




何もかも寝静まった夜、まるでこの世に一人取り残されたような気持ちになる。腕の中で死んだように眠る黄昏色の髪の女が笑うなら、あるいは自分もそちら側で、安寧に溺れられるのかもしれないけれど。眠れば必ず悪夢を見るのだ、ぽつりと落ちた男の独白は、闇に溶けて消えた。








空の頂たる星は何千年か毎に移り変わるらしい。けれど彼は、少なくとも私が死ぬまでは、その圧倒的な輝きでこの空を支配するだろう。それは恐怖でしかない筈なのに、




少しだけ嬉しい、と思った私は、きっととうに狂っているのだ。





ポラリス
(血塗られた道標が導く世界で、私だけ綺麗なままではいられない)





END
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ