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□ポラリス
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ーこの男は、いつ寝ているのだろう。




朝日に照らされる無防備な寝顔なぞ一度も拝見したことはないし、第一普段から濃いサングラスに覆われたその双眸は開いているのか閉じているのかを判別することも出来ない。夜中にふと目が覚めたときも、幼子がぬいぐるみを抱くように胸に押し当てられている私が、その表情を伺うことは叶わない。
それに、


「……どうした」


ほんの少しの身じろぎを感知して、眠れねェのか、と優しい言葉が降ってくる。そっくり同じ質問を返したいけれど、くたくたに疲れた身体は早く眠りの国に戻りたがっているし、下手に受け答えしてまた行為に持ち込まれるのはごめんだ。そして今日も何も言い返さないまま、微睡みの中にたゆたう。








あの星が動かずにいるから、人は道を違えずに進めるのだ。


「ナミ」


冬空にバルコニーの扉を全開にしていると、帰って来た男が咎めるような声で名を呼ぶ。ドフラミンゴは私が空を見上げるのを好まない。自分以外のものに想いを馳せるのは許せないのだという、なんとも子供じみた独占欲。


本当は、籠の鳥が空に焦がれて逃げ出すのではないかと勘繰っているのだ。馬鹿な男。そもそも翼を持たない私があの星を目指したとしても、奈落へ堕ちるだけなのに。


冷え切った身体を抱き寄せられて、親指だけで口元を撫でられると、水槽の金魚よろしく開かれた唇は次の刺激を欲しがって熱い息を吐き出す。躾けられた身体は、もう主の糸による操作がなくても逃げ出したりはしない。




「……ドフラミンゴは、眠らないの」
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