Book
□B
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講義は今日も順調に進んだ。
さすが船長が医者なだけある。医学的知識を備えたここのクルーはやはり物事の飲み込みが早く、みるみる上達する海図を見て、ナミは一宿一飯の恩義は返せそうね、と微笑んだ。
ウチのクルーたちじゃ、こうはいかないでしょうね。
日常を忘れてしまった今でさえ、あの少しも落ち着いていられない面子でこんな風に勉強するなんて無理だろうということは容易に想像出来た。
(……きっと皆、心配しているわ)
さっきのペンギンの言葉を、心の内で反芻する。
たとえ記憶が戻らなくても、と彼は言ってくれたけど、仲間たちの為にも、ローの為にも、少しでも早く、全てを思い出したい。
講義が終わったら。
ーー今夜こそ、ローと向き合おう。
「ねぇ、キャプテン」
全員がナミの講義を受講していたら、船の雑務が滞る。今日の受講者名簿からあぶれてしまったらしいベポは、薬品棚の整理をしながら、隣でチェックリストに目を通す船長に話しかけた。
「ナミと、もっと話さなくていいの?」
「……」
「ナミが来てから、キャプテンおれの所で寝てるじゃん。いつもは一緒に船長室にいるのに……キャプテンといっぱい話した方が、ナミの記憶も戻るかもしれないでしょ」
「……そうしてェのは山々なんだがな」
我慢なんてらしくないのに、変なキャプテン。
他のクルーが口にしたら即座に斬り刻まれそうな台詞を、白クマは臆面もなく言ってのける。
「でも、もし戻らなくてもきっと大丈夫だよ!」
「……どういう意味だ」
「キャプテンかっこいいもん!ナミの記憶が戻らなくても、ナミがもう一度キャプテンに恋をすればいいんだよ!」
屈託なく笑うベポに、ローもフッと口元を歪めた。
「それで慰めてるつもりか、ベポ。……まあ、一理あるがな」
「それでこそキャプテン!あ、おれ、ここ終わったから掃除行ってくるね!」
ばたばたと部屋を出たベポが遠ざかる気配。
それとは別に、強い気配を感じた。
そう、まるで野獣のようなーー
ローは長刀を掴んで、ニヤリと笑った。
「……来たか」