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□アムネシア×ディスペプシア@
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「……どういう、ことだ」


ギリ、と唇を噛み締めながら、ローはサニー号へと降り立った。
ずっと海の底に潜っていて、恋しがっていた筈の太陽も外の風も、心が荒れていれば何の慰めにもならない。肌を焦がす光も身体に纏わりつくようなべたついたぬるい潮風も、何もかもが鬱陶しい。いつも陽気で騒がしい麦わら屋の船の、ライオンだか向日葵だか分からない船首の呑気そうな顔もなんだか腹立たしくて、あの部分だけ切り取って海に沈めてやったらコイツらはどんな顔をするだろうか、なんて無益なことが一瞬ローの頭をよぎった。
いつもならすぐに現れて、照れたように微笑む女の顔が見えないことに、胸の辺りがずくりと疼く。




「トラ男、おおお落ち着け。まず座れ、な?いやー……電伝虫で話した通りなんだがよ、いわゆる記憶喪失っつーやつらしい」
「こないだ大シケが来てすごく船が揺れた拍子に、ナミが船縁に頭をぶつけちまったんだ……勿論おれがすぐに診て、怪我は軽かったんだけど、打ち所が悪かったみたいで」


凄まじい負のオーラを背負ったローをダイニングに通し、勇気を振り絞って説明したウソップとチョッパーは、細められた目の奥に剣呑な光を感じ取って、ひぃ、と声をあげて抱き合った。
物騒な顔は生まれつき。偶然のもたらした結果に、ローとてもとより誰を責めるつもりもなかったのだが。


「……気持ちは分かるが、まァ、とりあえず茶でも飲め」


溢れ出した殺気にも似た焦燥を宥めるかのように、ことり、と置かれた客人用のティーカップ。


「おれたちだけで解決出来ればそれに越したことはなかったんだが……なにしろ、何がキッカケで記憶が戻るか分からねェんだ。お前に頼らざるを得ないのは不本意だがよ」
「アンタスーパー外科医なんだろ?ちょちょっとナミの頭開けて弄ってみればすぐ治ったりしねェのか」
「ナミさんの繊細な脳味噌が、てめェのサイボーグ頭みたいに簡単に治ると思ってんじゃねェ!」
「ァんだと!?おれの頭ン中が電子回路で出来てると思ってんのか?」
「お二人とも、落ち着いて!ナミさんがいらっしゃいましたよ?」


最年長らしく仲裁に入るブルックの声を合図に、その場の雰囲気を推し量るようにそっとダイニングの扉が開いた。
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