Book
□B
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平和、平穏、安定、安らぎ、家族。
愛。
それを望むのが、そんなに愚かなことか?
欲望と、破壊と、裏切りと。汚らしい思惑渦巻く世界で生きてきたし、そんな世界が好きだった。
それでも、夢も見てはならないのか?
愛と情熱の国、ドレスローザ。
その国の君主が、愛を得られないなど、可笑しな話ではないか。
「ロシー」
この子の父親に倣って、まだ首も据わらない乳飲み子を、そう呼ぶ。それが自分の名だと分かるのだろうか、赤ん坊は大きなブラウンの瞳をぱっちりと見開かせて、母親の顔を見た。
ー愛せるかどうかわからない。
実際に自分から生まれ落ちた命をこの手に抱いてみても、心の何処かでそう感じたのは事実だ。
憎い男の、子供。私を縛る鎖。
それでも、初めて触れたその頬の柔らかさに、自然と涙が溢れて。抱き締めると、甘い匂いがして。
愛しい。
乳母に育てさせるつもりでいたドフラミンゴに頼んで、出来る限りずっと傍にいた。
「…ロシー」
弱いママで、ごめんね。
ひとつの翳りも無く、あなたを愛してあげなければならないのに。
名前を呼ぶと、ナミの葛藤を知る由もないロシナンテは、にこりと無邪気に微笑んだ。