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□眠れる獅子にくちづけを
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「んんっ……!」
「!!!?」
重なった唇から、甘い水音と吐息が漏れるまで、そう時間はかからなくて。
ウソップは最早自分の手に負えないと判断して周りを見渡した。狙撃手はキューピッドじゃない。男女をくっつけたり、別れさせたりは出来ない。
サンジがいれば怒り狂って割って入ってくるところだが、この時間は飯の仕込みでキッチンにいるんだろう、援軍は望み薄だ。ならばルフィ……とチョッパーは船首の方で遊んでいて、こちらに見向きもしない。あ、見張り台にロビンがいる、助けてくれ!!ーーだめだ、笑ってるだけだ。口パクでお気の毒さま、とか言ってやがる。
「ん……ハァ、」
いつの間にか、ゾロのごつごつした手はナミの薄いキャミソールの中に侵入していて。
ちょ、それはマズい!こんな所でおっ始めないで!ウチの船チョッパーもいるし、子供の教育上よろしくないから!!
「んっ」
「……こんくらいはしてもらわねェと、起きらんねェな」
わざとらしいリップ音を響かせて、真っ赤になったナミを解放する。意地悪げに片目を細めてみせたゾロが、青褪めているウソップに視線を移して、思いっきり低い声を出した。
「……何見てんだよ」
(お前らが!おれの前で!勝手に始めたんだろうがァー!!)
カヤ、すまん。男ウソップ、この偉大なる航路で、志半ばにして散るかもしれん。お前が夢を叶えて医者になった姿、一目この目で見たかった……
ウソップが故郷の幼馴染みに心の中で別れを告げたのとほぼ同じくして、サンジの怒声が響いた。だんだん近づいてくる叫びと足音に、ゾロは舌打ちをして腰が抜けているナミを抱き上げ、船室の方へ歩き出す。
痴話喧嘩に巻き込まれただけの可哀想な青年は、ゴーグルを掛け直して平穏を取り戻した甲板に再び座り込む。
ーーああ、今日もいい天気。新兵器開発日和。
「……死ぬかと思った……!」
「うォッ、どうしたウソップ!?」
板材を担いで丁度通り掛かった船大工に、ウソップはうわぁんと声を上げて泣きついたのだった。