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□眠れる獅子にくちづけを
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「ねぇ」
「……なんだ」
「私のこと、好き…?」
「……おぅ」
「ふふ」
「……んだよ」
「……私も、好きよ……」
「お前……
言う相手間違えてんだろ……」
船全体に行き渡るような、盛大に吐かれた溜め息。
勇敢なる海の戦士は開発中の武器を置いて、甘い会話を交わしてみせた女をゴーグル越しに見た。上目遣いで見つめ返すのは、甲板にぺたりと腹這いになって、悩ましげな表情を作るナミ。
「ホラ見ろ、アイツの斬撃のような視線を!後でシメられるのはおれなんだぞ!?」
「ふん、だってアイツが勝手に怒ってるんだもん。ヤキモチ妬かせとけばいいのよ、それに」
私がウソップのこと好きなのは、本当のことよ?ーー仲間として、ね。
やおら起き上がったナミがウソップの頬にキスを贈るふりをすると、少し離れた場所から野獣の雄叫びのようなものが聞こえた。
「オイ、ナミ…!流石に今のはナシだろ……!」
ただの野獣ならまだいい、でも今目の前で唸り声を出す野獣は刀を三本持っている。ウソップは獅子に狙われた小動物のごとく逃げ出さんとしたが、ナミはウソップの肩をがっしり掴んだままそれを許さず、飄々としていた。
「なによ、あんたがくだらないことで怒るからでしょ」
「何がだ!朝先に起きたら起こせって言ってるだけじゃねェか!!」
「起こしてるわよ!どうやったって起きないから放置してるの!」
「ほーう……あらゆる方法を試したとでも言いたげだなオイ……じゃあこういうのもやったのか?」
ぎらり。
野獣の瞳が爛々と輝いたので、ウソップは嫌な予感に身を竦ませた。