Book

□夜を愛づる姫君
2ページ/2ページ

何処かの船医の好物にも似た雪が、ナミの長い睫毛の上にふわりと乗った。




「…風邪を引く」


だから戻るぞ、という意味ではなくて。
自分の帽子をナミの小さな頭に被せて、より強く腕の中に閉じ込めた。この女がこれ以上、震えることの無いように。




「わ、たし、……ルフィを、みんなを、うらぎって、ー」
「…おれたちは味方でもねェが、今どうしても衝突しなきゃならない相手でもねェ。お前のやってることは、仲間への裏切りにはならない」
「それでも!求めるものが同じなら、…いつかぶつかるなら…私が海賊王にしたい男は、ルフィだもの。でも、その時、もしもあんたと戦わなきゃいけなくなった時、」




私は、ローを殺せない。




先程までの冷たく見えた表情は嘘のように消え失せて。
そこにいるのは、ただの、弱くて、愛おしい、一人の女。




「…お前に殺されるなら悪くはねェが」


髪に少し積もった雪を払ってやる。


「生憎おれは、すんなりやられる程ヤワじゃねェ。…お前を奪ってでも、おれは、おれの進むべき道を行く」




それがこの女の欲しかった答えかどうかは分からない。
けれどナミがローのコートに頭を預けたまま、縋るように手を伸ばしたので、冷えた身体をそっと抱き上げた。




ーああ、この夜に沈むには、お前の身体だけでは軽過ぎる。


二人重なり合ったなら、何処までも堕ちていけるだろうか。





夜を愛づる姫君
(それでも、いつか必ず太陽の下、お前の隣で生きてやるさ)





END
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ