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□火を見るよりも明らかに
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出来の悪ィ弟が、クルーに迷惑かけてねェか、心配なんだ。
そう言っては度々船を訪れる男が、明らかに航海士に好意を寄せていることは、当の本人と弟以外にはダダ漏れだった。
ーお兄ちゃん、か。
ナミにとって、おれってルフィの兄ちゃんってだけの存在なのかな。
この身に宿ったロギアの力は、身体を火に変えることは出来ても、自分の内側まで焼け爛れさせることは無い筈だ。
なのに、ちり、と焦げるような痛みが心臓を走ったのは、何故か。
本当は腹など痛くはなかった。ただナミの気を引きたいばかりについ言ってしまったことなのだが、自分でも何故そんなことを口走ったのかは、よく分かっていなかった。
「…エース?」
ナミの訝しげな声に、はたと現実に引き戻される。なんでもねェ、とカーディガンから手を離すと、ありがと、と微笑まれて、彼女は何処かへ行ってしまった。
頭をぼりぼりと掻いて、己の内に芽生えた妙な気持ちに翻弄されていたエースは、ようやく来訪に気付いたお子様組の歓迎を受けて騒ぎとともに船内へ消える。
そんな彼を見て、年長組の思うところは一致していた。
「常々、微笑ましいとは思っていたのだけれど…」
「ヨホホホ……ええ、そろそろ不憫ですね」
「弟と同じで、ソッチ方面にゃまるっきり疎いみてェだな」
「お節介かとは存じますが…少し、後押しして差し上げたい気もします」
「あら、奇遇ねブルック。私も丁度、同じことを考えていたところよ?」
三人の瞳に、悪戯っぽい輝きが宿る。
…もっとも一人、瞳が無い者もいたが。
「でもよ、どうすんだ?小娘はあの通り、何も気付いちゃいねェようだし…」
「あら、簡単なことだわ。こういうことはやはり男性にリードしてもらいたいものね?」
「と、言いますと?」
「まずはお兄さんに、自分の気持ちに気付いてもらわなくちゃ」
ロビンは紅茶のカップをそっと置いて、にっこり微笑んだ。
「ヤキモチ大作戦よ」