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□火を見るよりも明らかに
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「腹がいてェ」


サニー号の縁に行儀悪くしゃがみこんで、開口一番言い放ったエースに、ナミは呆れ顔を見せた。




よく晴れた午後だった。
年長組は甲板でお茶を啜り、コックは給仕に勤しみ、お子様組は釣りに興じる。剣士だけは姿が見えないから、何処かに篭って筋トレでもしているのかもしれない。
そんな平和な日常に、突然現れた鮮やかに燃える火。さも当然と言わんばかりにサニー号に舞い降りて、いきなりの腹がいてェ発言である。


「あんたいつも裸みたいな格好だもん、お腹も冷えるわよ」
「おれは火だぞ?冷える訳ねェ」


子供のように頬を膨らませてむすくれるエースに、ナミは思わず笑った。時々こうして前触れ無く弟の船に現れては、なんだかんだと自分に構って欲しがる年上の男。血は繋がってないと聞いたけど、笑い方や、底無しの胃袋や、こうしてすぐ拗ねてみせるところは、本当に良く似ている。



「それより、お前の格好の方が問題だ!なんだその着てるか着てねェか分かんねェ服は!そんなんじゃ風邪引くぞ‼︎」


今日のナミは、太腿も露わなショートパンツに、僅かに胸を隠すばかりの心許ないビキニ。カーディガンをボタンを留めずに、さらりと羽織っている。


「いつも通りじゃない。むしろカーディガンがあるだけ、露出控えめよ?」
「お前なー……男ばっかりの船なんだから、ちったァ気を遣えよ…」


ぶつくさ言いながら不器用な手付きでナミのボタンを留めていくエース。


ホント、世話焼きなんだから。こんなにしょっちゅうやって来るのは、それだけ弟が可愛くて仕方ないに違いない。




ーーああ、この兄弟はとても可愛い。
ルフィにとって、彼は憧れで、自慢で、でもほんの少し、




「口うるさいお兄ちゃんね」




ボタンを留める手が、一瞬止まった。
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