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□奏でるなら愛の唄を
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眉根を寄せた苦しげな顔は、酒のせいか、この島の惨劇によるものか。
どっちにしろ、上気した頬と苦悶の表情は、男を誘うには十分だ。


「おい、コッチだって血の匂いに昂ぶってんだ…あんまり煽んな」


「んー…」


来た時にはもう終わっていた闘い。
なんだか分からぬまま麦わら屋に押し付けられた、怪我をした島民の治療。
おれたちだって海賊だぞ、慈善団体じゃねェってのに。


横向きになった顔に掌を這わすと、小さなそれは大半が隠れてしまう。薄く開いた唇に、誘われるように親指を押し込むと、ちゅ、と音を立てられた。


「っ、」


天然か計算か知らないが、この酔っ払いをどうにかしなくては。
ローはカウンターに代金を置くと、麦わらさんの仲間から金を取るつもりはねェよ、と慌てる店主に、おれは仲間じゃねェ、と吐き捨てて、ナミを抱えて店を出た。




「あーあー…いい女は、船長がみんな持ってっちまう」
「酔っ払いに手を出す程うちの船長は飢えちゃいないさ。見ろ、麦わらの船の方角に向かってる。送るつもりだ」
「わざわざ船長が送る必要ないのになー?」
「キャプテン、耳真っ赤だったね!」
「そこはそっとしといてやれよ」
「すいません…」
「打たれ弱!」


そう遠くないテーブルにいたハートのクルーたちの会話は、低いジャズの音に紛れて、船長にまでは届かなかった。






月の出る入江に佇む船。
奇妙な骸骨が、その上で静かな調べを奏でていた。
美しくも哀しげなそれはきっと、救えなかった人々への、鎮魂歌(レクイエム)。


「…ヨホホホ、あなたはローさんですね?ナミさんを送って下さったのですか」


バイオリンを持つ手を止めて、ブルックが下に降りる。


「ついでだ、運んでやる。コイツの船室は何処だ」


パンツを見せてもらうチャンスだとか呟いている骸骨にこの女を渡す気は無い。
あからさまに残念がるブルックに、ローはフッと笑みを漏らした。


「…曲を変えてくれるか」





奏でるなら愛の唄を
(お姫様がいい夢を見られるように、な)





END
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