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□煙草の匂いを辿ったら
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ナミを連れて飲む場所を求めた結果、アクアリウムに落ち着いた。今日はさすがに甲板では寒いだろう、ナミも珍しく暖かそうな上着を着込んでいる。



この間ルフィがまた水槽にサメを入れたものだから、今はあまり魚がいない。前回ナミやコックにあんなに怒られたというのに。
釣られたその晩にはルフィの腹に収まってしまったサメの脅威に怯えずに済んだ残りの小魚たちが、広い水槽を控え目に泳ぐ。


隣に視線を戻すと、とろりとした酒が彼女の喉を滑らかに通ったのが分かった。


「ちょっと甘いけど、美味しい」
「甘いのもイケる口だろうが」


こうやって何度二人、酒を酌み交わしただろうか。
他の仲間はあまり酒に強くないから、最終的にはいつも二人になる。互いの酒の好みなど、とうに熟知している。


「…最近、元気ねェな」


小さな宴の、満ち足りた時間は、最近減ってきている。原因は分かっているが。


「…あら、誰が?気付かなかったわ」


そう言って惚けてみせるお前を、誰が悩ませているか知っている。


「…アイツのことか」


こくり、とまた酒が喉に吸い込まれた音が、やたらと耳につく。


「お前も見たんだろ?この前の島で、」
「やめて」


きっぱりと言う声はおれの言葉の続きを阻止したくせに、表情には本人は気付いていない悲愴感が滲み出ていた。


「…なんで、我慢する。本人に言やァいいじゃねェか」


「…嫌われたく、ないもん」




ああもう。


嫌われたくないのはおれも同じだ。
ただ、この船の鉄の掟は、お前の笑顔を守ること。
たとえ憎まれ役を買ってでも、守りたいのだというのに。




だからおれは、あの野郎が許せねェ。
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