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□煙草の匂いを辿ったら
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恋人はいつも優しく私を抱く。


それはもう丁寧に、気易く触れたら壊れてしまう飴細工を扱うかのように。彼は私をよくプリンセスと呼ぶけれど、本当に自分がお伽話の中のお姫様になったかと錯覚させるくらいに、優しく。


下手な嘘も、曖昧に流されるくらいに。









ひとり、女部屋で裸のまま、布団の中に潜る。
服を着るのも煩わしい、だってもたもたしている間に、残った温もりが消えてしまうのが怖いから。
身体は先程までの熱であたたかいのに、心だけが急速に冷えていく。




ー朝メシの仕込みが途中だった。


それは本当のことだ。
彼が翌朝の食事の為に、慣れた手つきで大量の玉葱を刻んでいるところを、私が誘ったのだから。
もう数時間もすれば、ロビンが見張りを終えて戻って来てしまう。いつも彼女が気を遣って朝まで部屋に戻らないことを知りながら、彼に愛を乞うたのだ。



コンコン。


ぼんやりしていたら、控え目なノックの音がした。もしかしてキッチンに立つサンジ君を見て、ロビンが戻ったのかな。


「…はい…」
「…ナミ、寝てたのか?」


聞こえてきた男の声に、思わず散らばる紅い花を隠すようにシーツを引き寄せた。愛しい彼のものとは違うけど、その問いかけに不器用な彼なりの精一杯が込められているのを、私は知ってる。


「この間の島でいい酒を見つけた。一杯やらないかと思って」
「…着替えてたの。今行くから、ちょっと待っててくれる?」
「ああ、悪ィ」




なるべく露出の少ない服を選んだが、この辺りの気候は昼間の蒸し暑さとは裏腹に夜は冷え込むから、不自然ではないだろう。
ロビンが戻らないなら、別に女部屋に彼を引き込んでお酒を酌み交わしてもいいのだけれど。
部屋に微かに残る、煙草の残り香に気付かれたくなくて、私は素早く扉を開けて外に出た。


「ほらよ」


一升瓶と三本の刀をぶら下げて笑うゾロに、私も微笑みを返した。
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