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□キスとおにぎり
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そーっと声をかけてみる。完全に覚醒しないように、また再び眠ってしまわないように、探り探り囁いて。


「ローさん…おはようございます」
「あぃ……」


ふふっ、「あい」だって。ベポみたい!


「朝ごはんは何がいいですか?」
「おにぎり……」


眠りながらちゃんと回答してる!
つい面白くなって、一言で答えられそうな質問を矢継ぎ早に幾つか放ってみる。ローは不明瞭な発音で答えたり、沈黙したままだったり、やはりまだ眠りの国に片足突っ込んでいるようだ。


「欲しいものは、ありますか……?」
「……」
「じゃあ、好きなものはなんですか……?」
「んー…おにぎり……」


どんだけおにぎり好きなのよ!
呆れ半分、可笑しさ半分で肩の力が抜けてしまう。今ならいつもは絶対訊けないことも、勢いで言える気がする。


「……好きな人は、誰ですか…?」
「………ナミ……






……とでも言って欲しかったか?」


にやり。
朝におよそ似つかわしくない、底意地の悪い邪悪な笑みで、男はようやくおはように相応しい行動を取る。すなわち起床。ただし髪の毛はぼさぼさ上半身は裸、背中を丸めて片膝立てて、気怠げな瞳にあからさまな揶揄いの色を乗せて、お行儀悪く海賊さながらに。まあ海賊なんだけど。


「……あんたどこから起きてたのよ」
「朝ごはんのくだりからだ」
「割と早い段階だし!」
「普段生意気な口しか聞かねェ割には、随分と可愛いこと出来んじゃねェか」
「〜〜っ!もう、うるさい!!」
「ひとつ、答え損ねた。今欲しいもの」
「もういいわよ……どうせそれもおにぎりとか言」






ちゅ。


真っ赤になった私を見て、憎らしくも愛しくて仕方のない笑みで、ローは笑うのだ。





キスとおにぎり
(…梅干し、入れてやるんだから…!)





END
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