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□キスとおにぎり
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私の男は、いつも冷たい。


基本的には無口だし、滅多に笑わない。背も高いしいい身体してるし顔も整ってはいるけど、怖い。”死の外科医”なんて、ちょっとアレな二つ名のおまけつき。




ーこんなにあどけない顔で眠るのにね。


ナミはくすりと笑って、男の上半身にある、剥き出しになった刺青に触れた。
ふかふかの帽子でいつもは見えない黒髪が、子供のように跳ねていて。視線だけで人を射殺せる能力者なのだと言われれば納得してしまいかねない鋭い瞳は、今は穏やかに伏せられて、心なしかトレードマークの隈も薄らいでいる。


「……う……」


あ、起こしちゃったかな。
胸にあるハートの刺青がなんだか可愛らしくて、つい撫で回してしまったから。一体どういう思い入れがあってこういう模様にしたのか、聞いたことはなかった。自分でデザインしたのだろうけど、もし彫師さんに「ハートで可愛い感じにして下さい」とかお願いしてたらどうしよう。すごくやだ。


……くる、ぱたん。


深い眠りの海からサルベージされたかと思われたローの意識は、寝返りを打って枕に顔を押し付けたところで、また沈んでしまったらしい。
この男は本当に朝に弱いのだ。


「ロー……、おはよう」


返事には期待せず声をかける。こんなに冷たい男でも、朝隣に愛する男の温もりがあるというのは得難い幸福だと思う。


「…ん…………ぁよ…」




え。
今、ローが。


おはようって言った?あのローが?何を言っても「あァ」とか「そうだな」とか一言完結で、おはようおやすみ愛してるの言葉を知らないローが?おはようって言った?
思わずまじまじと顔ーーはうつ伏せていて見えないから、かろうじて枕からはみ出ている耳の辺りを見つめる。
動かない。
起床するという行動を伴ってこそのおはようだ。おはようは何処へ行った。




さては、ローったら。
寝惚けてるわね!
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