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□この心臓に永遠を誓え
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まだ、朝と呼ぶには早い時間の、闇と明け方の狭間の独特の色。
決して嫌いではないが、今は薄墨色のそれが、おれの心の不安定さを映しているようで。
もぞもぞと乱れた衣服をただし、女は立ち上がる。さよならと終わりの言葉を吐くことも、次の逢瀬の約束もしない。それがいつもの、正しい別れ方。
の筈だった。
「…行くなよ」
無意識に口からぽろりと溢れた言葉に、女は足を止めた。
本当は最初から全部分かっていたのだ。
目が合った瞬間に、いつも冷静に鼓動を刻む心臓が、壊れてしまったことも。
たった一晩限りのことと終わらせられなかったことも。
後付けの理由なんて、本当は要らなかったことも。
全部が全部、おれの心臓を蝕みはじめた病の名を、証明しているのに。
「…ナミ…」
自分でも驚くくらいに、哀しい声が出たのだと思う。
振り向いた女の顔が、泣きそうだったから。
「…どうして…」
ーーとめるの。
衝動に動かされるまま、女を抱き寄せて噛みつく。
ー恋人でもないおれが、自分の船に帰るお前を止めることなど出来ない。
ただ、夜も明けきらぬ内に、他の仲間の目に触れないように帰るお前に、どうしようも無く黒い感情が渦巻く。
ただ、ひとつ、想いを音に乗せて紡げば良いのに。
何故、それが出来ないのか。