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□月が泣いている
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そろそろ宵闇に支配されようとする空が、最後の抵抗とばかりに紅い光をナミの髪に伸ばす。ベッドに散らばったその煌めきを、まるで仲間と慕うかのように。


「……っ、ハアッ……!」


塞がれた唇をなんとか引き剥がす。どちらのものともつかぬ銀色の糸が、伸びては頼りなげにぷつりと消える。


「やっ、ん……!」


何度も角度を変え、喰らい尽くすように覆い被さる。常人より長い舌は、噛み締められた歯列を容易く割り、ナミのそれを求め絡み付く。
何時までも追ってくる蛇のような舌に歯を立て、怯んだ隙に再び引き剥がした。瞳を一度だけぎゅっと瞑ると辛うじて引っ込んだ涙の代わりに、ありったけの敵意と嫌悪を込めて、ナミはドフラミンゴを睨みつけた。
が、男にとっては仔猫が毛を逆立てて唸っているようなもの。


「躾のなっちゃいねェ猫だな……まあ、強気な女を組み伏せるのも悪くねェ趣味だ。これからゆっくり、誰が主人か教えてやらねェとな?」


普段生意気な猫ほど、後で可愛く鳴くモンさ。
ぞっとするような台詞を吐くドフラミンゴの唇が、ゆっくり顎から首、胸元を這い、今まで顎に添えられていた右手が豊かな膨らみへと伸ばされた。くちづけは頭全体で振り払っていたものの、首から下が目に見えぬ力でぴくりとも動かせぬナミは、抵抗することが出来ない。美しい裸身の上を、男の大きな掌が無遠慮に這い回る。


「っぁ、や、」


意思とは裏腹に高められていく熱。敏感な両の蕾を食まれれば、どうしたって身体が跳ねる。弱いところを集中的に責められて、ナミの息は絶え絶えだ。
桃色の羽根が邪魔だと言わんばかりに脱ぎ捨てられる。容赦なく続いた責めが一瞬途切れたその時に、ナミの意識は外から聴こえてきた微かな雨音に向いた。


ーーあんなに美しい夕焼けだったのに。


男が現れる前の空に想いを馳せる。それが今は昏く、寂しそうに見えるのは、夜が深まったことばかりが理由ではなさそうだ。


「考え事とは余裕だな」
「っ!!」


上半身への刺激によって多少は湿り気を帯びていたそこに、男の長い指が突然入り込む。


「ぁ、あ、やっ」
「キツイな……こりゃ楽しめそうだ」


何度目か分からぬ恐怖が、するすると闇の色をしたビロードを広げ、またナミの心を覆い尽くした。
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