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□新たな未来へ
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初めてその報せを聞いた時は、嘘だと思った。



震える手で、新聞が皺くちゃになるのも構わず、繰り返し繰り返し字を追った。何十回同じ記事を読んだだろうか。余りにも非現実的なそれは、何処か遠くの、お伽話にも思えて。
肩を震わせて紙面に顔を突っ伏したナミを見た空島の気の良い老人たちは、掛ける言葉も見つからないまま、代わる代わる孫のような少女の背中と、オレンジの髪を撫でた。







もう二年も前のことなのだ。
壮絶な闘いの中で兄を喪い、誰よりも胸が張り裂けるような想いをしただろう船長は、誰よりも強くなって帰ってきた。私たち仲間の元へ。
ルフィの胸の内に、未だに癒えぬ傷があるのは仲間なら誰しも承知している。それを乗り越える強さを、真っ直ぐな情熱を、仲間なら誰しも愛している。


他のクルーたちも、それぞれ二年で経験を積み、逞しくなって戻ってきた。闘う力も、心も…


彼を喪った辛さは皆同じ。
そこから抜け出せぬのは、己だけか。









進路を見ると言い船首に立った航海士の嘘を許した。長い髪を風になびかせたその横顔に、今は亡き彼を想って透明な雫が静かに伝うことに、何人かは気付いていた。



こつり。
板張りの船に足音を立て、目指す方向に脚を進める。


「やめとけ」


いつの間にか横に立ち、紫煙を燻らすコックは、苦虫を噛み潰すような顔でローを見た。


「…」
先を促すように顔を向ける。
「想い人の死を悼む時間くらい、くれてやれ」


ゆっくり脚を踏み出す。こつり。
「ナミさんは」
こつり。
「まだエースを忘れられない」
こつり。
「てめェの…いや、おれたちの入る隙間はねェよ」
こつ…。


振り向くと、眉毛を妙な方向に歪めて、瞳を伏せるサンジが居た。



「もう、死んだ男だ」
「そうだ、だからー」


死んだ男には敵わない。彼を、超えることは出来ない。


そんな弱気なことを零す男をローは一瞥する。
「なら、奪うまでだ」





「てめェに…出来るのか?」


時折此処から遠く離れてしまう彼女の心を…連れ戻すことが。
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