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□瞳に、溺れる
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沈んでいる。
淡いような、深いような、青の中に。


辺りに散らばるのは海獣の無惨な姿だけで、チョッパーはいない。ローが助けてくれたに違いないと安堵する。


こんな時に脚をつるなんて、無様だ。いつもなら泳ぎは誰より得意なのに、パンクハザードでの闘いは思った以上にこの身体に負担をかけていたのだろうか。


(チョッパー……)


自らの唇から溢れ出て上に昇っていく白い泡と、もう何事もなかったかのように陽の光を反射して煌めく水面が遠くなっていくのを、だんだんと暗くなる視界の端に捉えていた。




「ナミ!!ごめんな、おれのせいで!!」
「万が一海獣の牙に毒でもありゃ面倒だ。トニー屋、おれがコイツの怪我を診るから、その間に仲間を呼んで来い」
「ゔ…わがった!トラ男、ナミを頼むぞ!!」


幸い傷は深くない。飲んだ海水も吐かせた。傷口に幾つかの試験薬を投じてみても、毒の反応は見られない。目を覚まさないのは、軽いショックによるものだろう。
傷口の縫合を手早く済ませ、診察台に横たわる彼女を見つめる。眩しいオレンジの髪、水を弾く白い肌、それを際どいところで包む青い水着。全てに目を奪われる、全てが神に愛されている。
神?
死神とも呼ばれ畏れられる自分が何を考えているのかと、吐き捨てるように低い声で嗤う。


身体についた水滴を拭き取り、未だに目を覚まさないその顔をまた凝視する。
見知らぬガキの為に一生懸命になって、海賊が聞いて呆れる。テメェの保身だけ考えてりゃいいものを。
何故怒る。
何故泣く。
どんな風に、笑う。


(ーー喪うのかと、)


外道、死神、死の外科医。”最悪の世代”と一括りにされる中でも、とりわけ異常ともいえる自分が、同盟船のクルーとはいえこんな小娘一人の生死に翻弄されるとは。
それに気付いた時点で、もう。







ああ……おれはとっくに、
溺れているーーー





いつもなら強気で生意気な言葉しか紡がない、今は色を失ったその唇に誘われるまま、そっと唇を重ねた。
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