Book2

□シーブルーカルセドニー
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「ッハァ〜〜〜〜」
「っ人の肌に盛大に溜め息吹きかけるのやめてくれない?」
「違ェよナミさん、深呼吸だよ深呼吸。主に吸ってんの。ナミさんの匂いを堪能してんの」


事が終わってすぐ煙草を咥えるでもなく、幼子が母を呼ぶように、いつもサンジ君は私を抱き締める。人よりもだいぶ早い段階で、弱い子供であることを諦めなければならなかった私たちは、成熟した大人の身体で互いの熱を分け合う。溢れた熱が冷たいシーツを、空気を、感情をあたためて、燃やして、そうして余計なものを焼き焦がすのを、心地良いと感じながら。


「ねえ、私の夢、知ってる」
「?自分の目で見た世界地図を描くこと、だろ?」
「じゃあ、サンジ君の夢は」
「……オールブルーを見つけること」


いつだったか偉大なる航路の入り口で、ちっぽけな酒樽にかかと落としを喰らわせたあの時の夢は、今も色褪せてはいない。それどころか強く、強く、燃え盛ったままだ。きっとサンジ君は、その炎に飲まれてしまわないよう、火力を調整してる。コックゆえ火加減はお手の物、ついでにいつもそこから煙草に火を貰っているのかもしれない。
なにがいいたいの、と腰に回った手に、僅かに力がこもった気がした。


「オールブルーが本当にあるなら、私もそれを見なくちゃ世界地図は完成しない。つまりね、サンジ君の夢が叶わないなら、私の夢も叶わないのよ」
「……いやいやナミさん、納得しかけたけど。そもそもあるかどうかも」
「あるかどうかは世界を全て見たあとに私が決める」


私はこの船の航海士だから。


半裸にシーツを巻きつけた格好じゃ、そう宣言しても締まらないけれど。虚ろな空洞を孕んだ玉髄は、宝物を見つけた子供みたいにきらきらと煌めいた。
黎明に夜が忘れていった星の欠片を詰め込んで、あるいは球体の水槽に、光る海月を閉じ込めて。
海をぎゅうっと握り締めたら、こんな淡く美しい青に、もしかしたら。


「……なんだ、あるじゃない、もうここに」


浮かび上がる疑問符には構わずに、宝石を隠したまぶたに吸い寄せられて。そっと口付けると、泣き出す直前のようにひくりと震えたそれを金の髪に隠して、サンジ君は慌てて煙草に火を点け大人に戻ったふりをした。





シーブルーカルセドニー
(青は優しい色だから)





END
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