Book2

□鏡映反転
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「……ここは?」


柔らかな色合いの壁紙、お菓子を模したテーブルやクッション。連れてこられた部屋に設えられた調度品はナミが使うには少し大きいというくらいのサイズで、天井こそ高かったが、とても目の前で窮屈そうにしている大男の部屋とは思えなかった。


「妹の部屋だ。お前、ローラの友人だと言ったそうだな」
「!ここ、ローラの……?ローラは、」
「安心しろ」


瞳に紅い光を纏わせて、男は言いたいことを先回りする。


「おれはお前に妹の居場所を吐け、などと言うつもりはない。元気ならそれでいい」
「……ビッグマムと意見が違うのね」
「ママはうちの海賊団の船長だ。命令は絶対。ーーしかし、妹の居場所を知る者がいなければ、可愛い妹の元へ殺し屋を送ることは不可能だろう?」


ナミは身構えた。場所を違えただけで、結局この男も自分を殺すつもりなのかもしれない。
しかし、男は肩を竦めただけで、ゆっくりと距離を取っていく。


「このフロアには妹たちの部屋が連なるが、嫁に行った者が多く、近辺は人の出入りが少ない。とはいえこの部屋を出れば身の安全は保障しかねる。お前の処遇についてはさっき聞いた通りだからな」


似合わないマカロンカラーの扉を潜る直前、男は今一度振り返った。


「おれの名はシャーロット・カタクリ」


ナミの生殺与奪権を握った男の名は、広く可愛らしい部屋の中で不気味に響いた。






「……ふぅ」


投げられたクッションは高い高い天井に届くはずもなく、柔らかな重みを伴って真下のナミの身体に落ちる。もっちりとした抱き心地は、この部屋の元の持ち主を思い出させて、少しだけナミの口元を綻ばせる。
しかし笑っている場合ではない。


ーー結婚式は延期。
カタクリは多くを教えてはくれなかったが、ナミは行間からおおよその事態を推測した。そして隠し持っていたビッグマムのビブルカードを使い、ホーミーズを密かに動かし裏を取っていた。


ルフィは無事に逃げ出した。サンジは安全だが、未だ結婚の呪縛から逃れられていない。タイヨウの海賊団、ファイアタンク海賊団の力を借りて、ルフィはサンジの奪還を目論んでいる。ビッグマム海賊団はゲストを留めておける限界までにルフィを始末し、結婚式を強行するつもりでいる。


そこに何故、自分の名前が一切出て来ないのか、何度考えてもナミには分からなかった。
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