Book2

□鏡映反転
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『お前たちの好きにしな』


血の滴るベリーカラーの唇から、ミュージカルばりの大音量の笑い声だけ残して、電伝虫は目を伏せた。
逃げ出したくてもとうに腰は抜け、頼みのルフィが閉じ込められたままのページは無情にも閉められて、もう声も届かない。品定めするような幾つもの視線が、容赦なくナミに突き刺さる。


「ーーだとよ。どうする?誰が貰う?」
「今は薄汚れちまってるが、相当な上玉だしなァ」
「スムージー姉さんに搾ってもらったら美味そうじゃないか?」


ビッグマムは殺せ、とは言わなかった。裏を返せば死んでも構わないし、生きていても取るに足らない存在ということだ。
下品な口笛の音がした方向をぎり、と唇を噛んで睨みつける。
見くびってもらっては困る。生きてさえいれば、道は拓けるのだ。


「おれに寄越せよ。その女のおかげで散々な目に合った」


聞いたことのある粘着質な声が、人混みを掻き分けて舞い降りる。顎を持ち上げられ、強制的に目を合わせられた。歪んだガラス玉のような瞳に映るナミは、色を失って震えている。


「おれが受けた屈辱の、何万倍ものお返しをしてから殺してやるよ」


脱出も反撃も諦めていないナミを嘲笑うかのように、もっとも望まない選択肢が退路を塞ぐ。屈強な身体に痛々しく包帯を巻いた将星は、復讐の炎で瞳をぎらぎらさせて、今にもナミの細い首を折ってしまいそうだった。


「待て、クラッカー。……その女、おれにくれないか」


ひときわ低く、よく通る声が、ナミの命を繋いだ。
がやがや騒いでいたシャーロット家の息子たちが全員黙り込んでしまうような、静かな迫力だった。


「……けどよ、兄貴には小さ過ぎるぜ、この女」


一瞬の静寂ののち、誰かが放った言葉から広がる下卑た笑い声を、その男はまた低い声音で制する。


「小娘に見えて、凄腕の航海士だと聞いている。いたぶって殺すより、使い道があるだろう」
「……カタクリの兄貴がそう言うなら、構わねェよ」


渋々ながらナミの首から手を放し、クラッカーは立ち上がる。
状況は好転したとは言い難いが、クラッカーの露骨な加虐心にこれ以上晒されずに済むことに、ナミは安堵した。


将星に文句を言わせず引き下がらせたこの男は何者だろうと、カタクリの肩に担ぎ上げられながらナミは思った。
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