Book2

□ルドベキア
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どうしようもなく、疼く。
限界まで鍛え抜かれた肉体と精神の前に、肉欲などとうに枯れ果てたとばかり思っていたのに。




「…ッ、これが、あんたの正義なの……?」


麦わらの男に苦杯を喫したあの日から、もう随分になる。取るに足らない一味の弱者と思っていた少女が、強く、艶やかに成長し、新世界随一の航海士として広く名が知られるくらいに。


「…そうだ。いつだって闇の正義の名の下に命令を遂行するのみ」


美しい毛並みを逆立てて、がたがたと震える華奢な身体をなんとか平常に保とうと足掻くさまは、哀れで滑稽だ。獰猛な豹の牙の射程範囲に入った猫に、勝ち目なぞある筈も無い。それでも状況を冷静に判断して、尚も挑戦的な言葉を投げかけてくる、その気の強さは買ってやってもいい。


「……世界政府がどんな方針転換で、私の航海術をどう利用しようとしているか知らないけどね、ゲストは丁重にお連れしろ、とは言われなかった?」
「『傷ひとつつけるな』とも『五体満足のまま』とも言われていない。……ああ、『抵抗するようなら、多少いたぶっても構わない』とは言われたが」
「……っ!!」


澄んだヘーゼルに恐怖の色が滲む。破れた衣服から覗く白い肌が、耳障りな鎖の音が、酷く加虐心を煽った。


「……ルフィが、皆が、…必ず、助けに来るわ」


ただの囚われの姫でいるつもりは毛頭無いらしい。
恐怖を押し隠して、敵の隙を、武器の在り処を、退路を目まぐるしく探っている。呆れるほど強く、仲間を信じている。丁度、あの日のニコ・ロビンのように。


ーーそうだ、その顔だ。
強ければ強いほど、美しければ美しいほど、壊しがいがある。


(……『いたぶり方』は、おれに一任する、と)


口元に歪んだ笑みが浮かんだ。




マリージョアまではまだ、遠い。
さあ、何をして遊ぼうか。





ルドベキア
(正義/強い精神力)





END
 

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