Book2

□ユリ
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ウエディング・ベルが鳴る。




「……このホテル、チャペルがあったのね」


ストライプのストローには真っ赤なルージュの痕が残った。からん、からん。鐘の音に合わせるように、大きな氷をかき混ぜて。


「シャボンディ諸島の中でも治安が良いところにあるからね。人生に一度の結婚式が、血生臭いものになっては可哀想だろう?」
「新郎新婦にそんな思いをさせたくないのなら、レイさんはそもそもここに出入りすべきじゃないと思うわ」
「同感だね。ただ私にだって、若い女の子とホテルでティータイムを楽しむ権利はあるよ」
「まあ、誰もこんなところで”冥王”がお茶してるとは思わないでしょうけど」


老紳士とその孫が、優雅な午後を過ごしている。ように見えて、その実札付きの二人が変装もせず堂々としていられるのは、何かあっても大丈夫、という自信があるからに他ならない。なにせ目の前にいるのは。


「ナミちゃん、ジュースだけで良かったのかい。ケーキセットもあるよ」
「……おなかすいてないの」


ただの好々爺にしか、今は見えないけれど。




庭先でひときわ大きな歓声が上がった。純白のドレスに包まれた花嫁が花婿に手を引かれ、はにかみながら歩いている。フラワーシャワーと地面から湧き出るシャボンがきらきらと太陽の光を受けて、まるで御伽の国の結婚式のよう。
華奢な花嫁が投げたブーケは綺麗な放物線を描いて、運良くそれをキャッチした若い女の子が、カサブランカに負けないほどの大輪の笑顔を咲かせた。


「ナミちゃんはあの百合の花のようだね」
「………そう?どのへんが?」
「華やかで、純粋無垢で、清楚なところが。君は美しいよ……思わず手折りたくなるほどに、ね」


お世辞に頬を染めるなんて、小娘みたいな真似は出来ない。なんでもないふりをして、幸せな花嫁を見つめた。
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