Book2

□G永遠
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「………言った筈だ」


眉間に深く刻まれた皺の意味するところは怒りでは無い。普段むさ苦しい者達にしか呼ばれないその愛称は、桜色の唇から溢れ出るとこんなにも耳触りが良いものかと、新鮮な驚きを与えた。


「…分かってる……分かって言ってる。だって、もう、」


好きになっちゃったんだもの


甘い、甘い砂糖菓子のような告白をしてみせるくせに、そんな、鞭打たれる痛みに耐えるような顔をして。
想いを伝え合う禁忌が遅効性の毒で身体を蝕んだとて、一度引かれたトリガーが元に戻ることなど、有り得ないのだ。


「…ッ、もう後戻りは出来ねェぞ…!」


獣じみた低い唸り声を合図に、二人の影が重なった。




とさ、と軽く音を立てて倒れ込んだ肌は透けるようで、胸元に浮かび上がる血を運ぶ青がいっそうその白さを際立たせる。目を閉じ、寒さでは無い理由で震える肢体が、恋人同士の睦み合いというより怪物に捧げられた生贄みたいで、ドフラミンゴは僅かに苦笑した。そんな様子を敏感に感じ取ったナミは涙を纏う瞳で軽く男を睨みつけ、男は謝罪の意味も込めて優しいキスをする。それはもう、自分にこんなキスが出来たのかというくらい、とろけるような甘い甘いキスを。


「ん、ふ……んぅ」


漏れた吐息をゴーサインと受け取って、舌先が薄く開いた唇を割り強引に侵入すると、一度だけふるりと震えた睫毛にもう戸惑いの色は無くて、口腔を這い回る長い舌に従順に応えようとする。それがいじらしくて、破壊衝動にも似た欲の思うまま、余す所無く貪った。


乱されたローブの合間から、うっすらと上気したすべらかな肌が現れる。下腹部に傷痕が残っていないことに心底安堵すると、ドフラミンゴはそっとそこを撫でた。そんな些細な刺激すら快楽に変換してしまう敏感な仔猫は、鳴き声の代わりにとうとう涙を零した。
怖いか、という問いにふるふる首を振ると、億劫げに手を伸ばしゆっくりとサングラスを外す。拒まなかった男の、思いの外やわらかな瞳にこもる熱に、恐怖とは別の何かがぞくりと背筋を走った。


「……今夜だけなの。思い出を、ちょうだい」


後はもう、何の言葉も、遠慮も躊躇いも要らない。月が隠れて、太陽が新しい一日の訪れを告げるまで。
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