Book2
□ライラック
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「……でも、まさか、ルフィにもう一人お兄さんがいるなんてねぇ」
春島のうららかな日差しを何層にも閉じ込めて、君のオレンジの髪が輝く。
一秒だって大人しくしていられない弟は、新たな島の誘惑に耐え兼ねて、文字通り弾むように出掛けて行った。絶対、絶対、勝手に帰ったらダメだからな!とキツく言い置いて。
知識に貪欲な航海士を、世界情勢の話がしたい、と言って連れ出したのは、あながち嘘でもないのだけれど。
「ーじゃあ、そんなに会ったことはないのか」
「うん、何回かルフィに会いに来てたけどね…でもちょっと話しただけで、弟思いのいいお兄さんだってことは分かったわ。礼儀正しくて、いつも優しかった」
「礼儀正しい?エースが?ははっ、あんな悪童が、知らねェ間に大人になっちまって…」
四皇や世界政府の動向は何処へやら、カフェのテラス席に上るのはルフィとエースの話題ばかりだ。兄弟の子供時代の話はあまり聞いたことがないのだろう、オレンジジュースは氷が溶けてすっかり薄まっている。成長したエースの姿はおれも知らないから、お互いの話が興味深くて仕方ない。
「……私、あの時、何も出来なくて……知った時には、全部終わってて」
「謝らないでくれ……何も出来なかったのは、おれも同じさ」
思い出して泣いてくれる人がいる。”鬼の子”と呼ばれたアイツは、今どんな顔で、雲の上から見ているのだろうか。
「それで、その時、エースったらね…」
何回かしか会ったことがないと言う割にエースの話は尽きない。時折涙は浮かぶけれど、思い出を語る彼女の笑顔は、太陽のように眩しい。
「なあ、ナミ、エースのこと……」
「え?」
「……いや、何でもない」
馬鹿エース。生きるも死ぬもお前の人生だけど、今だけは文句を言わせて欲しい。
勝手に、死んじまいやがって。