Book2

□金魚草
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可愛い花は甘い香りで
素敵な夢を届けてあげる




「おーいナミー、指名!VIPルーム!」
「はーい、誰ー?…あ、」


週末の夜に混み合うのは場末の居酒屋だけでは無く会員制の高級クラブでも同じことで、慌ただしく去ってしまった長鼻の黒服に誰が来たのか確認しそびれた。馴染みのゲストの情報は全部頭に叩き込んであるけれど、事前に教えてくれたらより失礼の無い振る舞いが出来るのに。この仕事は下準備と気配りが成否を分けることを、ウソップには後でよくよく言い聞かせておかなければならない。
そう、たとえどんなお客様でも、決して失礼の無いようにーー


「お待たせ致しました、ご指名ありがとうござい……げ」




ーー失礼の無いように。




「げ、とはなんだ。てめェそれでも接客業か、ボーナス査定に響くぞ」
「久しぶりー、仔猫チャン。相変わらず攫っちまいたくなるような美女だなァ?ん、少し太ったか?」
「よく見ると肌も荒れている。夜更かしと大酒は良くないぞ、小娘」




……たとえ相手が、どんなに失礼なお客様でも。


葉巻を燻らせぎろりとこちらを睨んだ『お客様』は、この店のオーナーである。王下七武海にしてカジノや高級クラブを何店舗も経営する実業家でもあるサー・クロコダイルは、時折ふらっと現れては酒を飲んでいく。自分の店なのだから好きにすればいいと思うかもしれないが、キャストからしたら迷惑な話だ。一向に酔わず、にこりともせず、一挙手一投足を見られていては。


「オーナー……飲むなら一人で飲んで下さい。私を呼ばないで、あと変なの連れて来ないで」
「変なのとは失礼な」
「フッフッフッ!傷付くねェ」




ゴスロリツンデレのP嬢、セクシー秘書系のK嬢、ドジっ子メガネのT嬢。新世界選りすぐりの美女が揃うのがウチの店の自慢だが、さすがに七武海三人をまとめてお相手出来る強心臓の持ち主は、ナンバーワンたる私しかいないのである。
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