Book2

□エリカ
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国の外れに荒野がある。


風の吹きすさぶその土地は険しい山の斜面にあって、誰も足を踏み入れず、また入ろうともしなかった。ただひとりを除いて。
空を自由に駆ける彼は、偶然見つけたその場所に、酷く心を揺さぶられた。
釣り鐘型の小さな花が鬱陶しいくらいに咲き乱れた、その場所に。




「いつも、どこへいくの」


嫉妬や疑念ではない、ただ純粋で無邪気なナミの問いかけに、ドフラミンゴは初めてそこにナミを連れ立って行くことを決めた。




「この国にしては、随分冷たい風の吹くところね」
「何も無い場所だろう」
「そうね……ううん、でも、可愛いお花がたくさん咲いてる。賑やかだわ」


それっきり、二人は暫く言葉を交わさなかった。




「……8歳の時、母を亡くした」




長い静寂の後に放たれた言葉にも、ナミは振り向かなかった。


「その頃は逃げて逃げて、生き延びることに必死で、今じゃ何処に母の亡骸を埋めたかも覚えちゃいない。だが、静かな場所で、小さな花がたくさん咲いていて……丁度、こんな風に」


同じ景色を見ているようでいて、目に映るものは同じではなくて。


「母は優しい人だった。奴隷たちにすら優しかった。おれはその優しさに甘えて、…随分母を困らせた」




ナミは黙っていた。
似たような不幸の味を、彼女は知っていた。
その飴菓子は、舐めている間は不思議と甘いのだけど。消えてなくなったと思えば、心の奥に耐え難い程の存在感で居座って。
全く孤独というやつは。






震える長い指に、小さな白い指が絡み付くのを、ただ花たちだけが見ていた。
風に揺れてさみしそうに、けれど優しく微笑みながら。





エリカ
(孤独/博愛)




END
 

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