Book2

□E憂鬱
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ナミは憂鬱だった。


事情を知らない者が見ればドンキホーテ・ファミリーの幹部だと勘違いするか、あるいはドフラミンゴの愛人かと勘繰られる程に、ナミの待遇は破格であった。大振りの宝石と煌びやかなドレスを身に纏い、王の傍に佇むさまはまさしく女王のそれで、支配階級故の高慢さでその眉がひそめられていたとしても、かしずき忠誠を誓うに余りある程の美しさで。
眉間に皺寄る原因が、実際は彼女の庶民的感覚から遠く離れたこの日常にあったとしても、それは有象無象の輩には計り知れない心中である。




「…ねえベビー、このドレス、ちょっと豪華過ぎない?」
「やっぱり似合う!若様の見立ては間違いないわね!!」


どうにも噛み合わない会話に溜め息が浮かぶ。使用人兼殺し屋の彼女もまたドレスひとつに心ときめかせる乙女な年頃には違いないが、だからと言ってただの客人を王族さながらに飾り立てるのはどうだろう。第一この国の場合肝心の王がアレなのだから、ナミが美しく装えば装うだけ浮いてしまうのだけれど。


「こんな風にしてもらう義理なんてないのよ……」
「あら、そんなことないわ。若様の言いつけですもの!それにナミは本当に可愛い!あ、そのドレスにはこっちのネックレスの方がいいかしら?いや…やっぱりルビーの方がいいかしら。うん、こっちだと胸元のレースと被って少しうるさいわね……コレにしましょ!」


可愛い、似合う、と繰り返すベビー5は心の底からそう思っているようで、上機嫌で装飾品を選ぶ後ろ姿にナミは複雑な気分になる。


傷はまだ癒えない。
仲間とはまだ会えない。
そして、いつか敵対し合うだろう人たちと、どんどん心を通わせてしまう。
それが後でどんな悲劇を生むかなんて、酷くありきたりの筋書きにいっそ笑えてくる。
ナミはまた溜め息を吐いて、アンティーク・ドールのごとき自分が映る大きな姿見越しに、窓の外を見た。




ナミの心とは裏腹に、空は雲ひとつない快晴だった。
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