Book2
□ポインセチア
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白銀に包まれた街は異国の祭りに彩られ、赤と緑と白で溢れている。忙しなく行き交う人々は誰も彼も幸せそうで、今いる場所が凍える冬島であることを忘れさせてくれる。漆黒の空につくりもののように張り付いた月の、その凛とした鋭さは聖なる夜に相応しい輝きで。
ーーこんな夜、愛し合う者たちは、寄り添って寒さを凌ぐらしい。
「遠慮すんなっておねェちゃん」
「遠慮じゃない!あんたの手ェびっくりするくらい冷たいのよ!!」
一点訂正する。
確かに浮かれた街を泳ぐ人々は誰も彼も幸せそうだったけれど、見るからに不機嫌そうな女が一人。
華やかな赤いワンピースにファーコートを合わせ、街の雰囲気に馴染んだ女ーーナミは、足を止めてかじかんだ爪先を編み上げのブーツの中で動かすと、観念したようにくるりと振り向いた。
「私は賞金首だけど、もう海軍を辞めた大将に追いかけ回される筋合いは無い筈よ!」
「そんなんおれの勝手でしょうが」
「〜〜だからなんでついてくるのかって聞いてるの!!」
相当値切ってあるとはいえ、高価で上質なナミのコートは裏地までふかふかで、冷たい空気の侵入を許さない。ワンピースにタイツの組み合わせは完全防寒とは言い難いが、所々雪に覆われ凍った通路を見れば、ロビンの助言通りハイヒールではなくブーツにして来て正解だったのだ。つまりナミとしては、日頃「まるで下着」と評される自分のコーディネートからはかけ離れた、非常にぬくぬくした格好でいる訳だけど。
「手袋くらいしなさいや、若いおねェちゃんが身体を冷やすとロクなことがねェよ」
「お父さんかあんたは」
手袋をはめて来なかったのは盲点だった。寒い寒くないの問題ではなく、この男に付け入る隙を与えないという意味で。
「別に心配したっていいでしょうよ……こんな寒い夜くらいは」
半ば無理やり取られた手は、見ようによってはロマンチックかもしれないが。
その手が自分のものより冷たければ、嫌がらせに他ならないとナミは思うのだ。