Book2

□ネリネ
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「女に花を贈るなら?」


薔薇の花を咥えて鏡を覗き込んでいた男は、信じられないという顔をして目の前の男を見た。凶悪な面構え、品の無い喋り方、世間に轟く悪評の数々。そんな男から、よもやこんな甘酸っぱい質問が飛び出てくるとは。


「なんだ、突然。キミらしくもない、というか気味悪い」
「うォォいキャベツお前!人が恥さ忍んで聞いてるっつうのに、なんて失礼な野郎だべ!!」


額に青筋立ててこちらへ突進してくる男のさまはさながら闘牛のよう。キャベンディッシュは鏡を机に伏せて、咥えた薔薇をもしゃもしゃと咀嚼し、溜め息を吐いた。


「なんでぼくに聞くんだ?確かに美しいぼくには花が似合うし、粗野で優美さに欠けるキミらよりはずっと花と女性の扱いには詳しいが」
「いちいちムカつく野郎だべー!!だども、確かに花に詳しい奴ァ他にいねェしな……」


憤慨しながらも、バルトロメオは本棚に詰まった書籍のタイトルを見て、相談するならやはりこの男を置いて他に無いと確信していた。『男こそ美容が命』『女性をメロメロにする100の方法』『今、「花を使ったスキンケア」がスゴい!』『シチュエーション別完璧な花束の渡し方』………
さすがに『美しき海賊団』を名乗るだけあって、己を取り巻くもの全てに美を求めるこの海賊貴公子の書斎は、艶やかに磨き上げられたアンティークの家具と、繊細な小物たちで彩られている。バルトロメオにはさっぱり理解出来ないが、薔薇を貪り食うのも独自の美容法なのだろう。


「ふむ、この時期の花ね……どんな女性に贈るんだ?」


なんだかんだ言って頼られるのが嬉しいキャベンディッシュは、棚から一冊の本(『愛する彼女に花束を〜季節、シーン、花言葉から選ぶ最高の花〜』)を取り出して、ぺらぺらとめくり出した。


「どんなってそりゃおめェ…美の女神みてェなお方だべ!何かに例えるのもおこがましい!」
「ほう」
「非の打ち所が無い美貌!美しく鮮やかなオレンジの髪!男を惑わすナイスバデー!そしてその高い技術…!あのお方の船を任せられる航海士は他にいらっしゃらねェべ!!」
「ふむ」
「いやいやバルトロメオそれ以上想像するのはマズい!頭に血が上ってきたべーーー!」
「くかーーっ」
「キャベツてめェこの野郎!話の途中で寝るな!!」
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