Book2

□金木犀
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たとえ連合艦隊を率いて来たって、白ひげのおじいちゃんのところには、億を超える賞金首がごろごろいる。海流も味方につけられないような海賊に勝ち目なんて無い。お酒が入っていようが、むしろそのせいで逆に生き生きと暴れ回る男たちを遠目に、私は言われた通り大人しく腰を下ろしていた。


…本当に無粋だわ。
折角、ゾロやサンジ君やエースを撒いて、いいムードでマルコとふたり過ごせていたのに。


名も知らぬ海賊たちを恨みながらちびちびお酒を舐めていると、程なくして目の前に蒼い炎が降り立った。




ーーああ、なんて綺麗なんだろう。


くらくらする、それでいて熱くはない不思議な熱に包まれて、闇夜を照らすその蒼は、息を飲むほどに幻想的で気高かった。
遠くに見えた、暗い海に沈みゆく船が宿した凶暴な赤とはまた違う神秘的な炎につと手を伸ばすと、みるみる人の形に定まった影がその手を掴んだ。


「アーー……すまなかった」


荘厳に燃える蒼が殆ど消えたところで飛び出た弱々しい台詞に、思わず首を傾げる。


「拭くモンでも持ってくりゃ良かったんだが……なにしろホラ、早く行って片付けちまわなきゃな、という気持ちが先走っちまってねい」


先程のくちづけを、そんな理由で済ませられたらたまらない。


「………だめよ、マルコ」


う、とたじろいで目を泳がすその姿に、大人の余裕は見る影も無く。
私は最大限に色っぽく、匂い立つような微笑みを作って、固まった手を唇に誘導した。


「…悪かったと思うなら、もっともっと甘いモノ、ちょうだい……?」




もっと、もっと、
酔わせてみせて。


そして今度は、
手の甲なんかじゃなく。
謙虚で押しの弱いわたしの想いびとに、
……『うっかり』くちづけさせてみせるわ。





金木犀
(謙虚/気高い人)





END
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