Book2

□金木犀
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「けいか、ちんしゅ?」
「桂花陳酒…白ワインに、金木犀の花を漬け込んだ酒だよい」


ちっと甘過ぎるから、もしかしたらお前さんの口にも合わねェかもしれないが、と控えめに差し出されたそのボトルを、私はにっこりと受け取った。




このひとの、こういうところが好き。
さりげない気配りや、優しさ。世界に名だたる大海賊団の一番隊隊長を任される器なのに、決してその強さをひけらかしたりせず、常に落ち着いている。


「…甘い」
「無理すんなよい」
「でも、フルーティで、口当たりも優しいわね」


ちょっとマルコみたいかも。
透き通った琥珀色の液体を星明かりにかざす振りをして、グラスの向こうにある似た輝きの髪を伺う。馬鹿騒ぎするお子様連中を、優しさ半分呆れ半分といった視線で見つめるその瞳に、私だけを映して欲しいと願うのは、子供じみた欲求だろうか。




どごん、と船尾の方から派手な音がして、香り高いお酒が少しだけ零れて手を濡らした。


「ハァ…ウチに挑むとは、余程腕に自信があるのか」


それとも只の馬鹿なのか。
マルコは皆まで言わなかったけれど、私も全く同感だったし、そして今宵の招かれざる客は間違いなく後者である。大砲を撃ち込んで来たは良いが、気まぐれな波の動きに捕まって、コントロールも覚束ない様子。どうせ不意打ちを掛けるなら、スマートにキメなさいよ。そもそも四皇の船に喧嘩売るなんて、あの海賊旗が見えてないのかしら?


「折角の宴を邪魔しやがって…まったく、無粋な輩だよい」


冗談でも折角のデート、と言ってくれたら、このお酒のように妖艶に、いくらでも甘ったるくなれるのにな。
なんてことを考えていたら、


「……すぐ戻るから、イイコで待ってろよい、ナミ」


手の甲にくちづけるように、不意打ちで金の雫を舐め取られて。
今まで摂取したアルコールが、急に身体中で熱を訴え出した。
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