Book2

□アスパルテヰム
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「ひょうひにのってごめんなひゃい」


綺麗な花には棘がある。
甘い蜜には毒がある。


…それはどうやら、おれのプリンセスにも言えることらしく。




「…何度言ったら分かるのかしら」


うにー、とおれの頬を限界まで引っ張りながら、先程までの甘やかな雰囲気を微塵も感じさせない冷徹な視線で、溜め息を落とされる。
ドSでダークなその微笑みも、中にベリーのコンフィチュールを閉じ込めたクラシックショコラみたいなもので、その奥に隠された甘さについへらりと口元が緩んでしまうけれど、今は我慢。また襲いかかったら、いくらなんでも呆れられてしまうだろう。


「……でも、可愛かったよ?」


そう言えばすべすべの頬に柔らかな赤が生まれて、でもそれを認めたくない愛しの彼女はふい、とそっぽを向いてしわくちゃのシーツに潜り込んだ。


「…………浮気者」
「あれー?あんなに愛し合ったのに、まだそんなこと言うの……?もしかして、足りなかっ」
「バカ!きらい!」


ごめんね。
勘違いさせて。
こんな風に君の気を惹こうとする、幼稚なやり方しか出来なくて。


「では、本日は愛の証に、スペシャルなスイーツを作って差し上げましょう。お姫様は何をご所望ですか?」


ネクタイをしゅるりと締め上げて恭しく頭を下げると、少しの間を空けて、シーツの中からつっけんどんな回答が。


「………いちごのタルト。カスタードと生クリームがたっぷり乗った、あまぁいやつ」


具体的なリクエストに、つい笑みが零れる。
少しばかり糖度が高過ぎるその菓子に、渋めの濃い紅茶を合わせようか。それとも、お姫様の我が儘にとことん付き合って、甘い甘いフレーバーティーでも淹れようか。




シーツの上から額のあたりにキスをすると、ばか、とさっきより幾分優しい声が聞こえた。





アスパルテヰム
(甘く、甘く、溺れさせて)





END
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