Book2

□C散歩
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海が好きだ。


ナミはまだ怠い身体を引きずって、あたたかな陽光の下、船縁にもたれて青い海を眺めていた。


海は好き。
目に痛い程の青も、その上にさざめく白波も、潮風もその匂いも。泳ぐのも昔から得意だ。海にまるごと委ねて、全てを包み込まれる感覚を味わえないなんて、能力者はつくづく可哀想だと思う。
だけれど、そろそろ陸地が恋しいなんて言ったら、我儘だろうか。
上陸すれば船を降りて、島で一人宿を取ることもよくある。ロビンと同室の女部屋が息詰まるという訳では決して無いのだけれど、たまにひとりきりになって好きなだけ眠り、大きな窓から入る光で起き、カーテンを開けて庭の植物たちの匂いを吸い込む。市場のざわめきに耳を傾けながら、朝日を受けて家々の白い壁がきらきらと輝くのを見る。そんな時間も、海の上で過ごすのと同じくらい、大切なのだ。


サニー号ならまだしも、ここは敵船の上。助けてもらったとはいえ、あまりくつろぐ気にもなれず、こうして海を眺めて暇を潰しているのだ。




「退屈か?」
「ひゃっ⁉︎」


急に頭の上から声が降ってきたので、思わずナミは素っ頓狂な声を出した。見上げれば案の定、妙な吊りあがり方をしたサングラスと、同じ角度に曲がる口元。


「脅かさないでよ…海に落ちるかと思ったじゃない」
「そりゃ困る、海の中じゃさすがに助けられねェからな」


王下七武海と軽口を叩き合う日が来るとは思わなかったけれど、その張本人が堅苦しい喋り方はするなというので、万事この調子だ。偶然出逢ってから数日、この男だけはやたらと自分を構いたがる。というかドフラミンゴの命令でナミに近付く者はいないのだけれど、そんなことを知る由も無いナミは単純接触効果の罠にまんまと嵌り、知らず知らずの内にドフラミンゴを頼るようになっていた。
退屈なのか、ともう一度同じ問いを繰り返した男に、ナミは肩を竦めてみせる。


「自分の船ならやることが山のようにあるんだけど…ここでは何もすることがないもの。せめて掃除くらいしようかと思ったら、この船の人は話しかけようとすると何故か慌てていなくなるし」


ドンキホーテ海賊団は皆シャイなの?などと見当違いのことを言い出したナミを、ドフラミンゴは軽々と抱えて片腕に乗せた。
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